入居後、途中退去する場合にトラブルが多い理由は、端的に言えば、入居契約時の「契約条件」の確認が十分でないからです。
途中退去する場合の条件は、「重要事項説明書」と「契約書」には必ず記載されており、契約時に必ず説明を受け、契約条件の承諾を確認したうえで、契約書に捺印する手順を踏んでいるはずなのです。にもかかわらず、トラブルになるのは、ホームスタッフによる説明不足と入居者側の思い込みが原因です。
有料老人ホームによっては、入居者の健康状態が悪化し、数ヵ月以上の入院治療が必要な状態になると、退去してもらう条件になっているところがあります。その理由は、有料老人ホームは、基本的に病院ではないためです。介護付有料老人ホームの場合は、その名のとおり、介護をするのもサービスなのですが、入居者の健康状態が悪化し、医療行為が必要になってくると、ホームのスタッフでは法的にも対応ができなくなるのです。
たとえば、「たんの吸引」という行為は、医療行為であり、これまでは条件を満たした特別養護老人ホームなどでしか例外的に認めていませんでした。今後は専用の研修を修了した介護福祉士やホームヘルパー、保育士らが、訪問介護事業所やグループホーム、老人保健施設、障害者施設などでもできるように法制化する方向になりました。将来は、有料老人ホームでもできるようになるかもしれません。
しかし、有料老人ホームは病院ではないのです。にもかかわらず、パンフレットに「365日24時間看護師が常駐」、「提携医療機関からの医師の定期往診」、「安心の健康サポート体制」などの言葉を掲げていることが多いため、入居者側があたかも病院のように対応してくれるかのように思い込んでしまいがちなのです。ホーム側は決して嘘をついているわけではないのですが、入居者側の期待感をあおる、こうした表現は誤解されやすいと言えましょう。
老人ホーム業界特有の
「償却」という仕組み
また、多くの有料老人ホームでは、入居時に「入居一時金」を徴収する仕組みになっています。入居一時金は、賃貸マンションなどの「敷金」や「保証金」とは異なります。介護型では概ね5年分、自立型では概ね15年分の家賃を「前払い分」として入居時に納めるものです。