これまでの連載でお話ししたように「高齢期の親に関わる諸問題」に起因するトラブルは、「親の死後に起こるトラブル」と「親の生前に起こるトラブル」の2つに分けられます。「親の死後に起こるトラブル」の大半は、親の遺産相続にまつわることで、親が公正証書遺言を遺すことである程度予防できることを説明しました。
一方、「親の生前に起こるトラブル」の大半は、親の介護にまつわることです。そして、介護が必要になるのは「認知症の発症」と「身体の衰え」が主な原因です。したがって、「親の生前に起こるトラブル」を予防する根本的な対策は、「認知症の発症」と「身体の衰え」を予防することです。今回は、認知症の予防策についてお話しします。
全国1600ヵ所で、1万7000人以上が取り組んでいる「学習療法」
認知症の予防には、(1)脳を活性化させる活動をする、(2)生活習慣病を避ける、(3)適度な運動をする、のがよいとされています。脳を活性化させる活動のなかでも、音読・手書き・簡単な計算とスタッフとのコミュニケーションによる「学習療法」は、全国1600以上の介護施設や自治体の健康教室に導入され、認知症の改善や脳機能の維持・向上に大きな効果を上げています。学習療法は、私が所属している東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授、(株)公文教育研究会、および高齢者施設を運営する社会福祉法人・道海永寿会により開発されたもので、最近は海外からも高い関心が寄せられています。
運営主体の(株)くもん学習療法センターによれば、認知症の人の脳機能改善を目的としたプログラムを狭義の「学習療法」と呼び、健康な人の脳機能維持・認知症予防を目的としたプログラムを「脳の健康教室」と呼びます。狭義の「学習療法」は、これまでに全国1200以上の介護施設に導入され、約1万2000人の認知症の人の症状改善に大きな効果を上げています。また、「脳の健康教室」は、全国の自治体の約400の会場で、5000人以上の人が取り組み、脳機能の維持・認知症予防に役立っています。
結論から言うと、あなたの親がまだ認知症にはなっていないものの、物忘れが多くなってきたと思われたら、ぜひ、最寄りの脳の健康教室に通うことをお勧めします。