家にいる時間は小さな保冷剤を両腕にあて、できるだけ腕に刺激を与えないようにして、耐えた。

 ただし、誠司さんにバレるわけにはいかないので、風呂の脱衣所には念のためカギをかけた。もちろん、肌見せは厳禁だ。困るのは保育園児の一人娘である。というのも、彼女は君江さんのプニプニした二の腕を触るのが大好きなのだ。そこで、仕方なく、真っ黒になった腕を見せた。

「すごいでしょ、痛いから触らないで。だけどお父さんには内緒。お母さん、脂肪溶解注射したのがばれたら夫婦ゲンカになるから」

 と打ち明けた。

 娘は驚きに目を丸くしていたが、秘密をしっかり守ってくれた。やがて腫れは引き、心配した指や腕の麻痺も出ず、3ヵ月が過ぎた。

(なんとなく、細くなったような気はするけど、あんまり変わんないなぁ)

 君江さんは不満げだ。

 それも仕方ない。脂肪は溶解しても、筋肉はしっかりついたまま。皮の厚みもあるので、皮下脂肪がなくなってもあまり印象は変わらないのだ。脂肪溶解注射の効果を実感できるには、相当脂肪の層が厚い必要があるのではないだろうか。

 というわけで、なにもかもがいつもの通り。

 君江さんは相変わらず「太い腕」で愛娘を抱き上げ、荷物を持ち、電車のつり革を握り、病院へ行き、元気に働いている。

 誠司さんは、そんな「たくましい妻」が大好きなのだが、「妻の秘密」は今も知らない。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)