リッターあたり30km! マツダがまもなく発表するデミオは、ガソリンエンジン車でありながらハイブリッド車並みの高い燃費性能を実現したという。マツダが開発した「SKYACTIV(スカイアクティブ)」という技術は、地球規模での環境問題解決の切り札となる可能性を秘めていた。
(自動車ジャーナリスト サトー タケシ)

 どうすればガソリンエンジン車でハイブリッド車並みの燃費を実現できるのか? マツダで「SKYACTIV」技術の開発の指揮を執った藤原清志執行役員は、「水鉄砲を思い浮かべてください」と切り出した。

高効率直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.3」 レギュラーガソリンを燃料とする自動車用量産エンジンとして史上最高の圧縮比14.0を採用。独自のアイドリングストップ技術やCVTと組み合わせてリッターあたり30km(10・15モード)の燃費性能を達成。

「水鉄砲の水を圧縮すればするほど、元に戻る力が大きくなって水は遠くまで飛びます。エンジンも同じ。高い圧縮比を実現したことで、同じガソリンの量でもたくさんの仕事をすることが可能になりました。これが好燃費のカギです」

 現行マツダ・デミオの1.3リッターエンジンの圧縮比は11.0であるが、新開発「SKYACTIV-G 1.3」エンジンの圧縮比は14.0となる。マツダによれば、圧縮比が3ポイント上がることで燃費は理論上6%程度向上するという。

「特別な燃料を使うレーシングカーのエンジンでもノッキング(燃料が正常に燃焼しないことで起こる、ドアをノックするような振動。エンジンが破損することもある)が起こるので、14.0という圧縮比の実現は難しいと言われてきました」(藤原氏)

手作業と試行錯誤で実現した
常識を覆すエンジンの高圧縮比

 圧縮比とノッキングの関係についてふれると、圧縮比が高くなるほど燃焼室内の温度が高くなる。温度が高くなりすぎると意図しないタイミングで着火する、異常燃焼が発生する。これがノッキングの原因である。

4-2-1排気システムによる残留ガス低減 排気径路を長くすることで、高圧の排気圧力波の伝達を遅らせ、一度排出したガスが燃焼室内に押し戻される量を減らす。この残留ガスの減少によって燃焼室内の温度が下がり、燃料の異常燃焼を抑える。結果として、高い圧縮比であってもノッキングが発生しにくくなる。

「そこで温度を下げるために、燃焼室内の高温のガスをきれいに排出する技術に取り組みました」(藤原氏)

 通常のエンジンでも燃焼室内のガスを排出するが、どうしても7%程度は残留してしまう。そこでマツダは、燃焼室内の残留ガスを効果的に排出する「4-2-1排気システム」を開発した。これによって残留ガスは4%程度へと半減したが、その道のりは平坦ではなかった。

「排気用のパイプのラインを直線にすると長くなりすぎ、走行中に大きな振動が出ることがわかりました。そこで、コンパクトなサイズに“ぐるぐる巻き”にしたのですが、これが難しかった」(藤原氏)

キャビティー(凹み)付きピストン 「4-2-1排気システム」を採用し、触媒までの距離が長くなると、排気温度が低下する。排気温度が低すぎると触媒は活発に働かない。そこでマツダは“くぼみ”の付いたピストン形状を開発。くぼみの部分に燃焼の“火種”を残すことで排気温度が上がり、触媒が機能し、排出ガスがクリーンになる。

 排出ガスをスムーズに外に出すことと、排出用ラインを曲げること。矛盾するふたつを両立するためにさまざまな取り組みを行った。たとえば排出用ラインの入口から音を発生させ、出口でその周波数を計測して空気の流れを分析した。こうした手作業とコンピュータ解析の連携で、試行錯誤しながらようやく「4-2-1排気システム」は完成する。14.0という常識外れの高圧縮比の陰には、エンジニアたちの地道な戦いがあったのだ。

 実は、今月発表されるデミオの「SKYACTIV-G 1.3」エンジンには、スペースの関係で「4-2-1排気システム」を搭載していない。代わりに、同じ効果を発揮する「クールドEGR」が使われた。これは排出ガスを冷やしてからもう一度、燃焼室内に注入する仕組み。「4-2-1排気システム」の開発過程で得たノウハウを活用することで、同じように燃焼室内の温度を下げるという。