親は子どもが将来困らないようにしてあげたい。一方で、子どもは親の期待に応えようとするうちに、自分の気持ちがわからなくなっていく――。『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著、藤田麗子訳)は気づかないうちに我慢や無理を続けてしまう人に優しい言葉を紡ぐ一冊。老若男女問わず、「涙が止まらなかった」という感動の声が相次いでいる。本書について、児童精神科医として活躍する精神科医さわ先生は、「この本が売れるのは納得しかない」「あなたを一番大切にしてあげていいというメッセージが深く心に届く」と絶賛の声を寄せている。今回は精神科医さわ先生に本書の内容をふまえ、「親も子もしんどくならない子育て」について、話を伺った。(取材:ダイヤモンド社・林えり、構成・文:照宮遼子)

【児童精神科医に聞く】子どもに過度な期待はNG?親も子も「しんどくならない子育て」とは?Photo: Adobe Stock

「親が喜ぶかどうか」が基準になってしまう

――子どもに将来困ってほしくないのが親心ですが、教育熱心になりすぎると、プレシャーがかかって子どもの心が折れるきっかけになることも。さわ先生ご自身は、親の期待に応えようと頑張りすぎてしまった経験はありますか?

精神科医さわ(以下、さわ):ありますね。私が子どもの頃、母はとにかく私の成績や点数にこだわる人で、「偏差値」「学歴」という言葉が大好きでした。

母は勉強さえしていればOKという考えで、「あなたは医者になるんだから、家事なんてしなくていい」とよく言われて育ったんです。

私が料理に少し興味を持ったときも、「お手伝いさんを雇えばいいから」と一蹴され、実際いまも料理はまったくできません(笑)。

――そうした環境の中で、どんな行動基準が身についていったのでしょうか。

さわ:勉強すれば母の機嫌がよくなり、成績が上がれば褒められる。そんな構図の中で、私の機嫌はどうでもよく、「これをやれば母が喜ぶかな?」と常に他人の顔色で行動を決めていました。その積み重ねが、無意識のうちに他人の評価を軸にして生きるクセになっていたんです。

【児童精神科医に聞く】子どもに過度な期待はNG?親も子も「しんどくならない子育て」とは?精神科医さわ先生 写真:照宮遼子

――その影響は、後々まで残るものなんでしょうか。

さわ:自分が何を感じ、何を望んでいるのかが、だんだんとわからなくなることもありました。

大人になってからも、そんな自分の状態に気づけないまま、「がんばるのが当たり前」という前提で走り続けてしまったり。

私のように無理を重ねるうちに、「大丈夫なふり」が習慣になってしまう人も多いと思います。