東日本大震災からの復興に専念すべきこの重大な時期に権力闘争に明け暮れる日本の政治を、海外の識者はどう見ているのか。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の著者エズラ・ヴォーゲル氏を父に持ち、同じくジャパンウォッチャーとして活躍するスティーヴン・ヴォーゲル教授は、意外にも、中長期では日本の政治の行方を楽観していると言う。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
カリフォルニア大学バークレー校政治学教授。先進工業国の政治経済が専門。日本の政治、比較政治経済、産業政策、防衛などに関する著作多数。1998年には大平正芳記念賞を受賞。日本で英字紙記者として働いた経験もあり、日本語に堪能。1979年に出版され、世界的ベストセラーとなった『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者、エズラ・ヴォーゲル氏は実父。
――よりによって震災復興に万全を期すべきこの時期に、内閣不信任騒動が起こった。事ここに至っても迷走を続ける日本の政治をどう見ているか。
政治とはそもそも権力闘争だと思えば、今日本で起きていることは、少しも驚きではない。
アメリカでも、甚大な被害を招いた2005年8月の「ハリケーン・カトリーナ」の後、当時のブッシュ大統領の対応が酷く、野党の民主党がこれを攻め立て、一時期に政治が大混乱したことがある。オバマ大統領の誕生をもたらした要因のひとつが、ハリケーン・カトリーナからの復興を巡るブッシュ共和党政権のもたつきであったことは間違いない。政治が災害を利用することは(他の国でも)よくあることだ。
――菅首相の辞任時期を巡り、民主党内で泥仕合が続いているが、菅首相はどうすべきだと思うか。
菅首相が(鳩山由紀夫前首相に)実際に何を約束したのかは私の知るところではないが、何かを約束するという行為自体が間違っている。国が危機的な状態にあるその時に、任期中の首相が、邪魔しないでいてくれたらいずれ辞任する、といった趣旨の言葉を口にすることはかなりおかしい。
本来は(不信任案の結果が出るまで)「私は首相だ。この危機に対処するのが今もっとも重要なことだ。それまでは辞められない」と最後までぶれずに言い続けるべきだった。辞任を予告したことで、当たり前のことながら、菅首相は脆弱な立場から政権運営を迫られることになる。しかし、そう言ってしまった以上は、混乱を最小限に抑えるやりかたで政権移行を急ぐしかない。
――菅首相の辞任は、早くて6月中と言われているが、一部には年内あるいは年明けという声すらある。レームダック(死に体)化してしまった日本の政権を諸外国はどう見ると思うか。外交問題でも課題は山積みだ。