現在のソマリア、エリトリア、ジブチ、エチオピアにまたがる「アフリカの角」は、はるか昔から世界を結ぶ交易の要衝だった。そこで珍重されたのが、祈りの場を満たす、ある香料である。キリスト教の広がりとともにその需要は高まり、宗教と商いは思いがけない形で結びついていった。なぜ、たった一つの香料が王国の繁栄を支えたのか。知られざるアフリカ史から、キリスト教との意外なつながりをひもとく。
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キリスト教とアフリカの意外なつながりとは?
本日は、アフリカの角の歴史についてお話しします。この地域は現在のソマリア、エリトリア、ジブチ、エチオピアの一帯(アフリカ大陸東部の半島)からなり、ソマリ半島とも呼ばれます。下図を見てください。
出典:地図で学ぶ「深読み」世界史
ソマリ半島の名が示すように、この地ではソマリ人という民族が広く分布しており、ソマリアという国名はこの民族名を冠しています。アフリカの角の沖合は一見すると開けた海域のように受け取られがちですが、この半島部は紅海とアラビア海(インド洋の西北海域)を結ぶ結節点に位置しており、ここを経由する船舶にとっては実質的にチョークポイントであると言えるのです。さらに紅海と地中海はスエズ運河で結ばれているため、今日でも海上交通の大動脈と言える役割を果たしています。
とはいえ、スエズ運河の開通以前から、アフリカの角はインド洋貿易において重きをなしてきた地域でもあります。しかしながら、その歴史は日本ではあまり知られていません。
アフリカの角の夜明け、「神の地」プントとの貿易
古代エジプトの文献では、前26世紀の第4王朝・クフ王の治世より、「プント」という地名が登場します。プントはしばしばエジプトの交易相手として言及され、エジプトは黄金、黒檀(こくたん)、香料の樹脂(おもに乳香(にゅうこう))、象牙などを輸入していました。プントは紅海に面した今日のエリトリア、ジブチ、ソマリア北部(あるいはアラビア半島南西)の一帯に位置したと考えられ、エジプトではタ・ネジェルすなわち「神の国」とも呼ばれます。プントはアフリカの角の黎明期を示すひとつの事例であり、エジプトが輸入した交易品も、後世にこの地で取引された物産と一致します。
紅海交易の繁栄、キリスト教とのつながり
プントの記録は前11世紀頃に途絶えますが、代わってこの地で興隆したのが、アクスム王国です(1世紀~960)。アクスム王国は今日のエチオピア北部を中心に建国され、アフリカの角の北部を掌握すると、紅海貿易で繁栄することになります。下図を見てください。
出典:地図で学ぶ「深読み」世界史
1世紀にローマ帝国のギリシア商人が記した『エリュトゥラー海案内記』にも、ゾスカレスというアクスム王が紅海南岸を支配しており、この地では乳香やシナモンといった香料や象牙、奴隷などが取引されていたことが記録されています。アフリカの角で長らく珍重された交易品が、乳香をはじめとする香料であり、乳香とはカンラン科の植物の樹脂を指します。キリスト教では、とりわけ正教会が奉神礼(ほうしんれい)でこの乳香を用いたことから、キリスト教の布教とともに乳香の需要も増したのです。
(本原稿は『地図で学ぶ「深読み」世界史』を一部抜粋・編集したものです)









