日本を代表する企業が、買収した海外子会社の減損処理により多額の損失を計上する事態が続いている。潤沢な手元資金を抱える中、多くの企業は市場の開拓やシェアの拡大などを重視して海外企業を買収し事業拡張を目指してきた。だが日本郵政に関しても、「初めから危ない選択だった」との見方を持つ専門家もいたようだ。これまでも「高値買い」や買収したあとには期待されたほどの成果が上がっていないケースも目立っている。今後、日本企業は海外企業の買収戦略をどう進めるべきか、考察してみたい。
海外企業買収額10兆円、過去最高
度重なる海外子会社の減損処理
経営学の理論では、企業の合併・買収(M&A)には、規模の経済効果の追求、成長のためにかかる時間の節約、コスト削減などのシナジー効果の発揮などのメリットがある。要は、事業を自前で立ち上げる時間を買うということになる。
そうした戦略の下、日本企業の多くはM&Aの効果を重視し、国内だけでなく海外の企業を傘下に収めて“グローバル企業”の仲間入りを果たそうとしてきた。2016年度、日本企業による海外企業の買収額は10兆円を超え、過去最高を記録した。
ただ、これまでに実行されてきた比較的規模の大きい海外での買収案件のヒストリーを振り返ると、必ずしも成功例ばかりではない。最近では、多額の減損を計上するなど失敗例も目立つ。
2000年代の初頭、NTTドコモは「ITバブル」の熱気に浸り、オランダ、英国、米国で大規模な買収戦略を敢行した。特に米国のAT&Tワイヤレスに対しては1兆2000億円もの資金をつぎ込み、結果的には失敗した。その後も、NTTドコモはインドの通信会社に投資を行ったが、これも想定通りの効果を上げるには至らなかった。
他にも、野村證券(野村ホールディングス)によるリーマンブラザーズの欧州・アジア部門の買収、第一三共によるインドの後発医薬品大手、ランバクシー・ラボラトリーズの買収など、必ずしも期待された成果をあげられていない例は多い。
日本郵政に関しても、オーストラリアの物流子会社であるトール・ホールディングスを買収した2015年というタイミング、6200億円という規模を踏まえると、世界経済の状況や為替レートの水準を冷静に考え、より適切なタイミング、買収価格などの条件を冷静に検証すべきだったといえるだろう。
買収戦略の失敗から債務超過に陥り、分社化を余儀なくされた東芝のケースを見ると、海外での買収戦略の失敗は企業の屋台骨を揺るがすマグニチュードをもたらす。そのリスクは軽視できない。