「今までと同じ商売をしていたら(業績は)落ちるだけだ」。外食大手コロワイドの大野健一・コロワイド東日本関東第二営業本部本部長は、こう警鐘を鳴らす。
若者の酒離れや飲酒運転の罰則強化などにより、居酒屋業界の市場は1990年代前半から減少傾向にある。外食産業総合調査研究センターの推計では、居酒屋・ビヤホール等の昨年の市場規模はピークだった92年と比べて32%も縮小しているのだ。
そんな中、生き残り策の1つとして求められるのが座席の稼働率のアップだ。「居酒屋の売り上げが最も高まるのは、だいたい19~21時の3時間」(大野本部長)と、居酒屋の勝負はなんと言っても夜にある。しかし、居酒屋が場所をただ遊ばせておきがちな昼間も、稼働率アップを目指すうえでは見過ごせない時間帯といえる。
コロワイドが展開する居酒屋の「北海道」では、昼間の場所を有効活用するため、もともと全店舗の5~6割の店でランチに取り組んでいた。しかし、ランチ顧客はせいぜい2~3人と少人数で来店することが多い。少人数席はいいが、大人数仕様の宴会席は間仕切りがあるにしても顧客を通しにくい。そのうえ宴会席は店の奥の方にあるため、ランチでは従業員のオペレーション効率も悪くなる。
そこで大野本部長は2年ほど前、ランチに加えて“昼宴会”を他社に先駆け打ち出した。「世の中にはシフト制で働いている人など、一般的な人と違う時間軸で動いている人がいる。そうした人たちの宴会ニーズが昼に取り込めるはず」と考えたのだ。
昼宴会は、それ専用のコースを前もって予約してもらう仕組みを取っているため、従業員と食材の準備ができ、効率がいい。アルコールに関しては飲み放題0円とお得感を演出。しかしその分、顧客の料理(コース)に対する財布の紐は緩む傾向にあるなど、メリットがあるという。
昼宴会の客単価は3000円を超す。ランチのそれは高くても1000円というから、実入りははるかにいい。当初、月に500~600人だった来店客数は、店舗数も当初より10店程度増えてはいるものの、最大で同5000人に上るようになった。利用客は前述の「時間軸の違う」サラリーマンのほかに、リタイアした中高年や子連れの主婦、フットサルや野球で汗を流した団体や学校行事の後の親子の利用など、多岐に渡るという。客1人当りの利益率は夜ほど高くないが、売上高が増えることで店全体の利益率向上には確実に貢献する。
東日本大震災が起こり、居酒屋各社は今、従来以上に苦しい状況に追い込まれている。日本フードサービス協会によれば、3月の居酒屋の全店売上高は前年同月比18.3%減。居酒屋にとって12月に続く書き入れ時の3月がこの数字とあり、マイナスインパクトは甚大といえる。4月も同10.6%減と立ち直りも遅い。
「和洋折衷の料理が食べられる居酒屋は本来、いろんな層の人が取り込める業態」(大野本部長)。創意工夫で顧客を創造した企業だけが淘汰を免れることになるだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)