最高のSF『上弦の月を喰べる獅子』

 1977年デビューの夢枕獏(ゆめまくらばく)は、日本SF界の巨人です(本人曰くは、「エロスとバイオレンスとオカルトの作家」)。

 多作でありがたいのですが、手を広げすぎて長編連載ものが完結しないという、読者にとって悪魔の作家でもあります。幸い15年かかって完結した『涅槃の王』(全7巻)は古代インドが舞台。確かにバイオレンス満載ですが、最後のシッダールタの覚醒(仏陀となる)が圧巻です。「悟りを得たもの(覚者)の誕生」と「不老不死」という、もっとも深淵で宗教的なテーマに対して、逃げずに彼なりの答えを出しています。素晴らしい!

 そして1991年、『上弦の月を喰べる獅子』が出版されました。あくまで「個人の感想」ですが、これが史上最高のSFです。

三谷撮影