「喫煙可能な店で無理して、がん患者は働かなくていいのではないか」という発言が世間のヒンシュクを買っているが、そもそも、日本国憲法には「職業選択の自由」がある。病気になった人には職業や職場の選択権がなくなるとも言わんばかりの発言で社会が揺れる中、認知症で介護を必要とする利用者に生き生きと働いてもらっている介護サービス事業所もある。その現地を訪問してみた。(取材・撮影・文/医療ジャーナリスト 福原麻希)
「仕事」をして
「労働の対価」を得る意味
毎朝10時半、「ホンダカーズ 東京中央町田東店」(自動車販売店・東京都町田市)にワゴン車が到着する。車から降りてきたのは、真っ赤なお揃いのウィンドブレーカーを着た男性たち。慣れた手つきでホースやバケツを運び、新車を洗い始めた。約30分後、5台の車はピカピカになった。
男性たちは、近隣の「DAYS BLG!」という名称のデイサービス(地域密着型通所介護)から派遣されている。DAYS BLG!は介護保険で利用できる小規模の介護施設で、おもに「認知症」と診断された方が朝から夕方まで過ごす。現在は50~90代までの男女23人がメンバー登録し、週3、4日、施設に来所する。入所者の平均要介護度は2.6。
洗車していたのは、要介護1と3の60代男性2人、要介護4の70代男性1人だった。
一般的なデイサービスは、利用者の生活での自立支援を目標に、職員の見守りやサポートを受けながら、朝から夕方まで過ごす。入浴や食事、歩行や手作業のリハビリテーションを受けるほか、レクリエーションも楽しむ。
一方、DAYS BLG!の特徴は、リハビリテーションやレクリエーションに「仕事」を取り入れていること。冒頭の洗車のほか、保険代理店のノベルティグッズの袋詰め、近所の休職センターや保育園から依頼された玉ネギの皮むきやジャガイモの芽取り、近隣の学校や家の草取り、正月には店舗の正面に設置する門松を手作りした。トイレタリーメーカーや印刷会社と共同で商品企画・開発をしたこともある。いまは、週刊フリーペーパーのポスティングも請け負っている。