第1に、リーダーの資質は重要だ。“公”心を持ち、最低限でもキャッシュフローを読める事業センスがあり、何よりも地域の信頼の篤い人でなければならない。

 そういう人を中心に、小さくても良いから事業を計画して、実行プロセスを一度回してみる。そこにサクセスストーリーができる。乗り越えたささやかなブレークスルーを通して、関係者に知識や経験が蓄積され、その成功を見た新たな協力者も現れる。

 次には、もう一段大きなスケールの事業を回していくことができる。ちょうど真珠が核の周りに巻きを増していくイメージで、そうした積み上げによってしか事業は地域に根ざしていかない。

 第2に、発想の転換が必要である。補助金は、“上から目線”で下に押しつける“供給プッシュ”の典型だ。そういう発想をする人に限って新しい技術が好きなので、成熟技術を無視して新技術を実証しよう、と言い出す。ところが、新しく奇をてらった技術が普及するはずもなく、肝心の市場と社会のニーズを無視するので、必ず失敗する。

 大事なのは、「上から目線」「供給プッシュ」「技術実証」ではなく、市場と社会に寄り添った「需要プル」の視点である。

 最上流でビジョンを計画する段階だと、内容も抽象的で、知識量も努力量も少なくてすむ。ところが、そのビジョンを具体化しようとすると、1000倍から1万倍もの知識量や作業時間が必要となり、多くは途中で現実の壁で行き詰まる。さらに実現化するには、その10万倍から100万倍の労力と知恵が必要になる。これを突破するには、知識と経験を持った分厚い人材が必要となる。だから「地域の核」が必要なのだ。

 こうして「地域の核」で、実践のプロセスを積み重ねてゆくことこそが、社会の姿を変えていくのに大事な知恵の積み重ね方ではないだろうか。だがその重要性が、国や自治体、受託企業など、“上から目線”の経験と視点しかない人たちには分からない。

大局的視野を持つ意思決定者で
慣習や縦割りのハードルを乗り越える

 確実に実績を上げている自治体も、数は少ないが存在する。

 長野県飯田市は一つの成功例である。

 市や信用金庫、市民の出資した「おひさま進歩エネルギー」を軸として、太陽光発電と省エネ設備を運用している。市内の幼稚園の屋根に太陽光パネルを設置。これだけでは充分な収益が確保できないため、市の美術博物館に省エネ設備を入れ、長期契約でサービス費用を得ることで、採算のとれる構造となっている。おひさま進歩エネルギー代表である原亮弘さんが責任を負ってくれ、私が代表を務めるNPOも共同事業者として参加している。

 ここでは「リーダー」と「需要プル型発想」が根付き、一応黒字事業として成り立っている。それでも、過去のプロセスを振り返ると、非常に地味で下らないハードルが数々立ちふさがった。

 主に旧来の規則との攻防で、これらを突破するには「大局的な視野を持つ上位者」が必要だった。これが、「地域の核」に必要な第3の要素だ。

 たとえば当初、市の幼稚園の屋根に太陽光パネルを設置する場合、「行政施設の目的外使用」に当たるため、固定資産税と賃貸料が発生すると言われた。それではビジネスモデルは成り立たない。そもそも、行政は身銭を切り補助金を払ってまで太陽光パネルを普及させようとしているくせに、積極的に設置しようとしている我々にカネを払わせるというのは、ちぐはぐな言い分である。