「高性能スピーカー」としての発表
アップルが米時間6月5日から開催した「WWDC 2017」(Worldwide Developers Conference)で、「HomePod」(ホームポッド)を発表した。ハードウェアデバイスとしては、アップル・ウォッチ以来2年ぶりの新製品発表。コンピュータやタブレット、そしてソフトウェアのアップデートではない新たなデバイスの登場は、待望のアップルの本領発揮といったところだ。HomePodには、アップル流のストイックなデザインも前面に出ている。
ただ、不思議なのはこの製品の位置付けである。
HomePodという名前は、「iPod」(アイポッド)で音楽のデジタル化を牽引してきたアップルが、デジタル音楽を家庭でもシームレスに楽しめるように生み出した製品であることを物語っている。これは、そのための高性能スピーカーだ。
一方、前評判ではアップルは、アマゾンの「エコー」やグーグルの「グーグル・ホーム」のような家庭用AIアシスタント・デバイスを発表するだろうとされていた。普通の言葉で話しかければ、天気やニュースを伝えてくれ、ショッピングリストも作成でき、今日の予定もわかり、さらに家庭内のIoT照明器具やガレージドアの操作などもこなせるというデバイスだ。
アップルは、すでにiPhoneやMacで使えるAIアシスタントのシリ(Siri)を持っており、それを利用してホーム市場のパイを奪おうとするのは当然だろう。家庭用AIアシスタントは人気市場で、2014年から販売されているアマゾン・エコーは、2016年の年末商戦前までにすでに1100万個売り上げたとされている(モーガン・スタンレー調べ)。アマゾンによれば、その年末商戦で「何百万個も売れた」とのことなので、今や売上総数は1500万個にも届くのではないかと推測される。
アップルもこの新しい市場に参入してきてもおかしくない。というよりは、なぜもっと早く参入しないのかと待たれていたのだ。
ところが、WWDC 2017でのHomePodの説明は、スピーカーとしての高性能さに終始した。7つのツイーター(高音用スピーカー)やアップルのA8プロセッサーを搭載し、その空間を認識して最良の音響を構成する。その音響は、リード・シンガーとバックのシンガーの声が分かれて聞こえるほど空間的なものだという。
もちろん、シリは音楽の検索や操作に使え、またニュースや天気予報、交通情報などを伝えるAIアシスタントとして、このHomePodでも使える。だが、シリはあくまでも後ろに控えた存在としてしかフィーチャーされていない。
それはなぜか。