iPhoneアプリを通してソフトバンクから通話料収入を奪うべく、NTT陣営が“刺客”としてNTTコムをモバイル市場に送り込んだという見方が業界内に広がるのも無理はない。

 だが、実態は違う。NTTコムは、親会社のNTT(持株会社)や、モバイルの分野を担うNTTドコモに事前に相談することなく、今回のiPhoneアプリを発表していたのである。しかも、すでにPCやAndroid端末向けアプリの開発にも着手しており、今年8月以降に出す予定という。

 今回のiPhoneアプリの計画段階から携わったNTTコムの井上誠一IPサービス部担当部長は、「将来的には、アプリで動く世界であれば、どんな分野にでも出ていきたい」と意欲を見せる。つまり、iPhoneにとどまらず、これから種類も数も増えるAndroid端末や、タブレット端末、通信を搭載したゲーム機までを視野に入れた壮大な計画だったのだ。

 その意味では、むしろ戸惑っているのは、宣戦布告された立場のソフトバンクもさることながら、自分たちの守備範囲に進入されたNTTドコモである。ある幹部は「正直、不愉快だ。彼らのアプリは、結果的にモバイル業界全体のパイを小さくする方向に働く」と警戒感を隠さない。

 もっとも、単体としてアプリを購入する一般の利用者からすれば、固定電話と携帯電話を連携させて割安のIP電話を提供するという仕組みは、歓迎される可能性が高い。さらに、NTTコムにとっては、(競争政策上の問題で)NTT東西やNTTドコモができない独自のサービスを展開する“素地”が整えられたことになる。NTT陣営に黙ってアプリを世に出した理由は、そこにある。

 NTT陣営にとって宿敵であるソフトバンクが注力するiPhoneを舞台にして、独自のサービス開発で一歩コマを進めたNTTコムの電撃作戦は、将来的になかなか面白いことになりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)