来年(2012年)5月に、東京スカイツリーが開業する。大人の入場料が、第2展望台までで3000円だという。それが高いかどうかは、展望台から眺める「百万ドルの夜景」次第だろう。
その百万ドルも、時代によって随分と価値が異なるようだ。1971年(昭和46年)までは1ドル=360円であったから、百万ドルの夜景も「3億6000万円」の値打ちがあった。当時、大卒の初任給は5万円程度。「百万ドルの夜景」は、さぞかし豪華だったといえるだろう。
現在の「百万ドルの夜景」は、円高の進行によって約8000万円へと目減りしてしまった。現在の初任給と比較して、東京スカイツリーの入場料3000円は高いか低いか。夜景が100万ドルでは物足りない。「1千万ドル」、いや「1億ドル」くらいの値打ちがないと、入場料3000円のモトは取れないといえるだろう。
長期低落傾向なのになぜか株は復調傾向!
会計知のない人々がスーパーゼネコンの株価を荒らす
その東京スカイツリーで名を馳せたのが、工事を担当する大林組だ。いわずと知れたスーパーゼネコン(大成建設、大林組、清水建設、鹿島建設、証券コード順)の1社である。今回はこの業界を取り上げる。
正直なところを申し上げると、コラムのネタにスーパーゼネコンを取り上げるのは、書き手として魅力が乏しいと考えている。一個人が、スーパーゼネコンと取引することはないからだ。
筆者自製の『原価計算工房ver.6』を用いた解析結果でも、スーパーゼネコンの長期低落傾向は、はっきりしている。むしろ、百万ドルを8000万円にまで目減りさせてしまった円高問題そのものを取り上げるほうが、緊急性は高いといえるだろう。
ところが、スーパーゼネコンの株価推移を眺めているとき、ある時期を境に、全社で復調傾向を示すシグナルが現われているのを発見し、驚いてしまった。「なぜ?」と調べていくうちに、どうやら「会計知のない人々」が、スーパーゼネコンの株価を荒らしているのではないか、と疑うに至った。
そこで今回は注意を喚起する意味で、そのカラクリを解明してみることにする。国際会計基準IFRSを「やるのか、やらないのか」によって、株式市場が右往左往しないように、という意味も込めている。
崩壊する株価収益率PER
最初に、株式投資の世界で最もポピュラーな指標である株価収益率を提示する。通常、PER(Price Earning Ratio)と呼ばれる。式で表わすと〔図表 1〕であり、スーパーゼネコン4社のPERの推移を描いたものが〔図表 2〕になる。
〔図表 2〕を見ると、2008年9月のリーマン-ショック以前では、4社のPERは20倍前後で安定推移していたことがわかる。ところが「ショック後」のPERは、見事に崩壊している。この状況は、スーパーゼネコンに限らず、自動車業界や電機業界などでも広く見られる現象だ。