記者会見で握手する(左から)大成建設の田中茂義会長、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスの山内万丈代表、東洋建設の吉田真也会長記者会見で握手する(左から)大成建設の田中茂義会長、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスの山内万丈代表、東洋建設の吉田真也会長執行役員兼最高経営責任者(CEO) Photo by Takayuki Miyai

大成建設は、海洋土木大手の東洋建設を1600億円で買収すると発表した。東洋建設を巡っては、任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が2022年春に買収を仕掛けて筆頭株主となり、その後は株主提案で取締役の過半数を押さえていた。大成建設による買収で3年にわたる曲折は決着する。YFOの買収提案に反対し、自力での成長を目指していた東洋建設はなぜ大成建設の傘下に入る道を選んだのか。方針転換に至った内幕に加え、再編相手に挙がった企業の実名も明らかにする。(ダイヤモンド編集部 宮井貴之、名古屋和希)

大成建設が東洋建設を1600億円で買収
任天堂創業家のTOB提案から3年で決着

「買収によるシナジーを速やかに発揮できるようお互いに連携して、国内外の事業や今後拡大が見込まれる脱炭素に向けた取り組みなどを進めていきたい」。大成建設による海洋土木大手、東洋建設の買収発表を受けて8日夜に開かれた記者会見で、大成建設の田中茂義会長はそう語った。東洋建設の吉田真也会長執行役員兼最高経営責任者(CEO)も「事業シナジーは大変大きい」と強調した。

 大成建設は陸上工事に強みがある一方、東洋建設は海洋工事の高い技術を持つ。両社の連携で、海洋工事などへの技術者のシフトや案件の大型化といったシナジー発揮が期待できるという。また、今後成長が見込まれる洋上風力発電事業などでも連携を深め、受注拡大を目指す考えだ。

 大成建設はTOB(株式公開買い付け)などを通じて東洋建設の全株式を取得し、完全子会社化する。買収総額は1600億円で、ゼネコン業界では過去最大規模の再編となる。大成建設は23年にピーエス三菱(現ピーエス・コンストラクション)を買収するなどM&A(合併・買収)を積極的に仕掛けてきた。東洋建設の買収で土木分野では業界トップの規模となる。

 今回の再編は、東洋建設を巡る3年にわたる曲折にも終止符を打つこととなった。発端は、2022年春の任天堂創業家の資産運用会社、ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)の東洋建設へのTOB提案である。前田建設工業を傘下に持つインフロニア・ホールディングスによる東洋建設へのTOB期間中に3割近い株式を取得し、筆頭株主に躍り出た。

 YFOはTOB価格をインフロニアの1株770円を大きく上回る1株1000円とし、インフロニアのTOBは不成立となった。YFOはその後、東洋建設の経営陣と非公開化に向けた協議を進めてきたが、東洋建設側が徹底的に拒絶。対立が深まる中で、YFOは東洋建設に対する株主提案に踏み切る。23年6月に開かれた東洋建設の株主総会は、極めて異例の結果となる。YFO側が提案した取締役候補は7人が選任され、取締役会の過半数を押さえたのだ。そして、YFOが推した吉田会長らによる新たな経営体制が発足した。

 YFOは23年秋に、TOB価格を1000円から1255円に大幅に引き上げ、買収成立は秒読みに入ったようにもみえた。ところが、YFOが推す取締役が過半を占める取締役会は、TOB価格が妥当でないとして、YFOの買収提案に反対。23年末にYFOは買収案を撤回する。

 YFOの買収提案に反対した東洋建設は自力路線での成長を目指すことになった。だが、YFOの買収案に反対してからわずか1年半ほどで、大手の傘下に入る決断を下した。なぜ、東洋建設は方針を転換したのか。次ページでは、大成建設の傘下入りの内幕を明らかにする。また、東洋建設の再編相手の候補は大成建設以外にも複数存在していた。再編候補だった企業の実名も公開する。