中長期的な円安トレンドにあるとはいえ、米国トランプ政権を巡る数々のリスク、欧州でのポピュリズム台頭リスク、北朝鮮をめぐる地政学リスクなど、国際的な懸念材料が溢れるなか、日本における円高不安は根強い

昨年末の米国利上げと年初のトランプ政権誕生を機に、一時急激なドル高円安に振れた為替相場だが、「ご祝儀相場」の効果は剥落し、足もとでは1ドル=110円台となっている。日銀がマイナス金利を導入した昨年1月と比べて、10円以上の円高だ。さらに足もとでは、ロシアゲート事件・米経済政策の不透明感・日米経済摩擦などのトランプリスク、欧州でのポピュリズム台頭リスク、北朝鮮をめぐる地政学リスクといった国際的な懸念材料が多く、場合によっては「ドルやユーロの顕著な下落」「有事の円買い」が起きる可能性も否定できない。

ただでさえ日本の自動車各社は、英国EU離脱決定などを受けた昨年央の予期せぬ円高が響き、減益決算を発表したばかり。アベノミクス以前と比べれば中長期的な円安トレンドにあるとはいえ、企業・投資家の間では、今後何かのきっかけで円高に進むのではないかとの不安が根強い。足もとの為替相場はどこへ向かっているのか。冷静な分析に定評のある植野大作・三菱UFJモルガン・スタンレー証券 リサーチ部 チーフ為替ストラテジストに聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

今、為替を動かす要因とは?
欧州リスクは本当に去ったか

――いわゆる欧州リスクは、フランス大統領選を経て緩和されたのでしょうか。

 直近における欧州最大の懸念材料は、やはり5月上旬のフランス大統領選挙でした。万一ルペン氏が当選していたら、ユーロからの離脱、フランスフランの復活といった非現実的な政策がリスク要因となり、円に対してユーロやドルが暴落しかねない不安がありましたが、実際はそうならなかった。また、6月上旬のフランス国民議会選挙でも、マクロン新大統領率いる政党「前進する共和国」が単独過半数を獲得する見込みであり、波乱が起きる可能性は少ないと見ます。

 さらに、9月のドイツ総選挙も、メルケル首相とシュルツ候補は共に親EU派なので、どちらが勝っても大きな騒動は起きないでしょう。その意味で、欧州リスクはひとまず終息したと見ています。ただし一点気になるのは、早ければ今年の秋以降、遅くとも来年の5月までに予定されるイタリアの総選挙で、ポピュリスト政党「五つ星運動」が躍進する懸念。彼らはフランスでのルペン氏敗北を見て、今は強硬な主張を控えているようですが、イタリアの動向は要注意です。