──それでも亮平少年は決して後ろ向きにならず、引きこもりもせず、持ち前の人懐っこさで機転や正義感を発揮して自ら道を切り拓いていく。そういう亮平の魅力に周囲の人たちも惹きつけられ、あたたかい眼差しを送ります。作品全体が明るい空気に包まれ、将来に希望を感じさせずにはいられない。読んでいて元気や勇気が湧いてきます。

 とにかく僕自身が相当なやんちゃ坊主でしたからね。施設の子どもたちはいじめられたり差別されたりするのが嫌だから、学校で友だちをつくらない。でも僕は平気でした。負けちゃいけない、いじけちゃいけないという気持ちが強かったし、それをバネにしていたようなところがあったから暗く落ち込むこともありませんでした。

 だから友だちもつくれたし、その友だちの家にも遊びに行ったし、住み込みで施設の作業に従事していた大人たちの部屋にも上がり込んで可愛がってもらった。「施設の子」だからといって決していじけなかったから、保母さんや作業員、学校の先生たちみんなが親身になってくれたのだと思います。

施設の生活は
経験した者にしかわからない

──めぐみ園ではしばしばコーラスの練習があり、ボーイソプラノで精一杯発声する亮平は先生に褒められます。

 僕には変声期というものがなかった(笑)から、声は細くなったけれど、いまでも高い声は出せるんです。自室でときどき大きな声を出しながら、唱歌や童謡、讃美歌をうたうこともある。この小説の執筆中も、「うるわし春よ」「四季の雨」「里の秋」「神ともにいまして」などなど、当時習っていた歌の数々が口を衝いて出てきました。

──「めぐみ園がなければ、私は作家になっていなかったかもしれない」。本の帯にそう書かれています。

 施設の生活は、経験した者にしかわからない。でも、その経験があったからこそ、僕は自分で未来を切り拓いていくためのエネルギーのようなものを蓄えることができたと考えています。