たとえば銀行預金に100万円を預けて10年間運用しても、得られる利息は、税引き後でたったの240円。金利は低い、公的年金にも期待できない、そのうえ給料もなかなか増えない、という厳しい状況のなかで資産を築くために「投資信託」を利用するのは、不安な将来を生き抜くために必要な手段の1つでしょう。
しかし、日本国内で運用されており、個人が金融機関の窓口で買える投資信託は2621本(確定拠出年金などを除く・2011年1月末時点)もあり、さらにその本数は増え続けています。この中からどうやって、自分に合った投資信託を選べば良いのでしょうか。
今回の対談では『投資信託は、この8本から選びなさい。』の著者、中野晴啓さんと、『投資信託にだまされるな![新版]』の著者、竹川美奈子さんが、金融業界、投資信託の裏話を交えながら、本当の投資信託の選び方について話し合います。

投資信託人気は再び高まっている?

竹川美奈子(たけかわ みなこ) ファイナンシャル・ジャーナリスト。LIFE MAP,LLC代表。出版社や新聞社勤務などを経て独立。99年ファイナンシャルプランナー資格取得。新聞や雑誌などを中心に執筆活動を行ういっぽう、投 資信託やETF、確定拠出年金セミナーなどの講師を務める。
公式サイト http://www.m-takekawa.jp/ 個人ツイッター http://twitter.com/minakotakekawa

竹川 投資信託を買おうという個人の方は増えているのですか?

中野 投資信託の純資産残高という数字から市場の規模を見ると、リーマンショック前に一時80兆円を超えるまで増えた後、50兆円割れまで大幅減。理由は株価などが大暴落したからですが、今は60兆円台まで回復してきました。その意味では、徐々に投資信託を買おうという人が増えているのは事実です。

竹川 でも、投資信託の使い方を知らないという方は、今も結構いらっしゃいますよね。たとえば若い方で、これから資産を形成していく必要があるのに、なぜか持っているファンドは毎月分配型。長期投資が可能であれば、毎月分配金を受け取るよりも、極力分配金を出さない商品を選んで複利運用をしていった方が、大きく増える可能性があるのに、そのメリットを放棄してしまっている。

 あるいは金融機関の店頭にパンフレットが置いてあるような、いわば今、金融機関が販売したいと考えているファンドにばかり注目してしまう。このように、投資信託のきちっとした使い方を知らない個人の方が多いのは、やはり投資信託に関連する情報がしっかり伝わっていないからだと思います。私が『投資信託にだまされるな!』という本を書いたのは、パンフレットの見方なども含めて、体系的に投資信託の使い方をしっかり伝えたかったからです。

中野 私が社長をやっているセゾン投信は、今年3月に設立から4年が経過しました。この間、口座を開設してくれた方は4万5000人になり、420億円の残高を集めることができました。

 設立から現在に至るまで、日本に住んでいる1億2000万人の人たち全員が利用できる、利用したくなる商品に育てていこうという哲学を持って運用しています。商品性自体は決して尖ったものではありませんが、コストも低く長期にわたって付き合っていけるファンドにしたいと考えています。

竹川 でも、投資信託の現状を見ていると、資産形成に向いたオーソドックスなファンドというのは、なかなか認知されません。どうしても、販売金融機関が売りたいと考えているものを、個人が買わされているというのが現実です。売りやすいもの、たとえばテーマ型とか分配金が多いとか、そういった「分かりやすい特徴のもの」が売れているんです。

 実際、投資信託協会のアンケートを見ても、投資信託購入のきっかけで最も多い回答は、「証券会社や銀行等の人から勧められて」というもので、全体の58%を占めています。

中野 その割合は多すぎですよね…。金融機関は、自分たちがその時々で売りたいものを勧めてきますから、資産形成に向いた商品が浸透せず、悩ましいところです。