現政権が粛々と目論んでいる憲法改正。しかし憲法学的には、そもそも「GHQからの押しつけで明治憲法を日本国憲法に改正したこと自体が国際法に違反しており、無効だ」という学説が存在する。これは決して突飛な話ではなく、占領解除後、数年経ってから国会議員や憲法学者の間でも広く議論されていたという。現行の日本国憲法は無効だと主張し、『憲法無効論とは何か』(展転社)、『「日本国憲法」・「新皇室典範」無効論』(自由社ブックレット)などの著作がある、憲法学者・小山常実氏に聞いた。(フリーライター 光浦晋三)

トンデモ説ではない
“憲法無効”の根拠

現行憲法は究極の自虐史観!?日本国憲法「無効論」の論拠憲法改正を目論む安倍首相と、それに強硬に反対する人たち――この構図にとらわれると見えてこないが、そもそも現行の日本国憲法が「無効」だったという議論が、専門家のあいだには存在する Photo:Natsuki Sakai/AFLO

 日本国憲法の施行から70年。安倍晋三首相は今年の憲法記念日に、日本会議が主導する憲法改正を求める集会「第19回公開憲法フォーラム」にメッセージを寄せ、「憲法改正は自由民主党の立党以来の党是です」と、これまで通りの主張を発信してみせた。

 この先、憲法改正の議論は盛り上がっていくことになりそうだが、実はそれ以前に決着をつけておかなければならない重要な問題があるという。それが「日本国憲法無効論」だ。

 安倍政権が進める憲法改正は、現行の憲法は有効だと認めた上での議論だ。一般的にも当たり前とされている大前提である。ところが憲法学者の間では、現行の憲法は「無効」だという考え方があるのだ。憲法学者の小山氏によると、「無効」とする最大の理由は、憲法の成立過程において、日本側の自由意志がほとんど存在しなかったという点にある。

 19世紀までの世界は、西ヨーロッパ諸国が各国を植民地化していた。そんな中、日本は明治維新によって“脱亜入欧”を急ぎ、1889年にアジア初の近代憲法である「大日本帝国憲法」を公布。翌年に施行して独立国の地位を守った。第一次世界大戦後には三大国(英米日)にまで上り詰めたが、第二次世界大戦で敗戦。1946年、憲法改正手続きにより「日本国憲法」が公布され、1947年に施行されている。

 しかし小山氏は、「日本国憲法は、アメリカを代表とした国際連合という戦勝国側が国連憲章体制によって、独立国であった日本を属国化し、ひいては滅ぼすために作った憲法であります。ではアメリカが日本を属国化するために何を心がけたかというと、まず言えることは『日本人にこの憲法を作らせなかった』ということです」と指摘する。

「日本国憲法は占領下で作られました。しかも、天皇も政府も議会も、全て自由意志を持っていない状態で作られました。独立国の憲法はその国の自由意志によって作られなければならないものです。それが、占領下の、しかもGHQ(連合国最高司令官総司令部)の完全統制下という異常な状態で、日本及び日本人を差別する形で日本国憲法が作られたのです。そしていまの憲法学界や歴史学界においても、政府案を作るところまでは自由意志がなかった、押し付けられたということは、みんなが認めています」

 なるほど、国際法に違反して占領国に押し付けられた憲法なら、無効という理屈は理解できる。1899年の第1回万国平和会議で採択されたハーグ陸戦条約の第43条にも、「国の権力が事実上占領者の手に移った上は、占領者は絶対的な支障がない限り、占領地の現行法律を尊重して、なるべく公共の秩序及び生活を回復確保する為、施せる一切の手段を尽くさなければならない」とある。