他者を犠牲にして利を得る「逆英雄」に気をつけよ
社会を脆くし、危機を生み出している主犯は、“身銭を切らない”人たちだ。世の中には、他者を犠牲にして、自分だけちゃっかりと反脆くなろうとする連中がいる。彼らは、変動性、変化、無秩序のアップサイド(利得)を独り占めし、損失や被害といったダウンサイド・リスクを他者に負わせるのだ。そして、このような他者の脆さと引き換えに手に入れる反脆さは目に見えない。ソビエト=ハーバード流の知識業界は反脆さに対して無知なので、この非対称性が着目されることはめったにないし、教えられることは(今のところ)まったくない。さらに、2008年に始まった金融危機でわかったように、現代の制度や政治事情が複雑化しているせいで、破綻のリスクを他者に押しつけても、簡単には見破られない。
かつて、高い地位や要職に就く人というのは、リスクを冒し、自分の行動のダウンサイドを受け入れた者だけだった。そして、他者のためにそれをするのが英雄だった。ところが、今日ではまったく逆のことが起こっていて、逆英雄という新しい人種が続々と出現している。官僚。銀行家。ダボス会議に出席する国際人脈自慢協会の会員のみなさん。真のリスクを冒さず説明責任も果たしていないのに、権力だけはやたらとある学者など。彼らはシステムをいいように操作し、そのツケを市民に押しつけている。
歴史を見渡してみても、リスクを冒さない連中、個人的なエクスポージャーを抱えていない連中が、これほど幅を利かせている時代はない。
いちばん重要な倫理規範を挙げるとすればこうだ。他者の脆さと引き換えに反脆さを手に入れるべからず。
(続く)