僕はハーバード・ビジネススクールの
宴会部長

 ということで、毎年、その年の一年生の日本人留学生が立ち上がり、一致団結して外国人140人を迎え撃つべく徹底的な旅行を組み立てる。

 旅行をとことんやるのである。

 短い期間の訪問に日本の良いところをすべてダイジェストで詰め込む。その悠然とした自然、美しく独特な文化や歴史、機能的で清潔な大都市や人情あふれる街並み、世界を代表する企業や研究機関、そしてそこで暮らす情熱にあふれ心優しい人々たち。東京から始まる旅程は、箱根、名古屋、京都、広島と西へ流れていき、その間に企業訪問、リーダーとの対話といった真面目な話から、観光や遊びも取り込み、当然夜は毎夜大宴会を催す。

 とりわけ日本人は大人しい人達だと海外では思われがちなのだが、日本のお祭り文化・宴会文化もあますとこなく伝える為に宴会もとことんやるのだ。

 総合商社で営業をしていた僕は、その「宴会部長」の任を負い、140人の外国人たちに日本流の熱い熱い宴会を体験させるべく激烈な夜のプランを組み立てた。

 トリップ初日の六本木の有名居酒屋「ウェルカム大宴会」から火ぶたが切られた「夜の部」は、日本最大級の屋形船「ゴジラ」を借り切る「東京湾カラオケ大宴会」、箱根の老舗旅館の大宴会場を浴衣の外国人140人でジャックする「箱根お座敷大宴会」、舞妓さんに登場願う「京都おばんです大宴会」、そして最後の地広島で腹を割ってとことん語りあう「さよなら大宴会」といった目玉宴会を含めた大小さまざまな催しで、ぐいぐい外国人達の鎧を解いていくのだ。

「宴会芸」も半端ですませない。東大法学部の元官僚のエリートだろうが、有名な元ブランドマネージャーの美女だろうが関係ない。全員着ぐるみは当たり前だし、どれだけ前夜深酒していようが早朝から宴会芸の大特訓を繰り返し、「総合商社」の職業的な宴会を凌駕する高いレベルのものを創り出す。そして、外国人ゲスト達の魂をひっつかんで、ぐいぐい揺さぶり、高く高く昇天させていくのだ。