茶の間まで客が入ってきた時代

「近所に店がなかったから、最初から繁盛したよ。この辺は町工場が多かったから、働く人ばかりだった」

 昼飯時になると、毎日、満席だ。座れなくなると、常連は客席を抜けて、奥の茶の間へ。茶の間のテーブルに腰かけてラーメンをすすり、チャーハンをかっ込んだ。

「今は保健所がうるさいからそんなことはできないけれど、あの頃は客席がいっぱいになると、茶の間で食事させる店はいくつもあった。だって、引っ越しの時だって、みんなトラックの荷台に乗ったでしょう。俺が野球少年だった頃、町のチームで大会に出て凱旋したときだって、子どもはみんな荷台に乗ってたよ。あれも、もう警察がうるさいから、できないけれど」

 いずれも昭和の思い出である。

 こばやしには「半」と付くメニューが4つある。半ラーメン(300円 普通盛りは500円)、半ワンタン(300円 500円)、半チャーハン(350円 700円)、半カレーライス(350円 650円)。値付けはきっちり半分ではない。しかし、量はいずれもきっちり半分だ。高齢の客のなかには半ラーメンだけを頼んで、いとおしそうにスープをすすり、麺を食べて帰っていく人がいる。

「昔はみんな半分なんて頼まずに、ラーメンとチャーハンを1杯ずつ食べていたけれど、ここのところ、年を取った人たちが増えてきて……。半分でいいというようになったんだ。肉体労働をしていた人たちは驚くくらいたくさん食べたのにね」

 チャーハンの具はチャーシュー、玉ねぎ、にんじん、玉子。以前はナルトを入れていたけれど、「ナルトを食べる人はもういなくなった」から、いまは入っていない。

「町のラーメン屋で大切なのはスープ」

 とんこつと煮干しで取ったスープで麺類、スープ類を作る。餃子、ワンタン、チャーシューはもちろん自家製。妻の友子はサービスが担当だけれど、ポテトサラダとお新香、そしてその他の料理も作る。

 お父さんが出前に出かけたら、代わりにキッチンに立つわけだ。たとえば、ラーメンと餃子を頼んだ人に出前をすると料金は千円。手間とオートバイのガソリン代を考えたら、割には合わない。だが、それでもお父さんは出前料は取らない。料理もサービスも出前がタダなことも、こばやしがやっていることはすべて昭和のままだ。