当連載でも繰り返し、観光でもいいから被災地に行って現場を見てきてほしいと伝えているが、実際に行くとなるとどうすればいいのか分からないので教えてほしいという相談も多い。この夏は東北支援をうたったツアー企画が目白押しだが、津波被害にあった地域を巡るものはほとんどない。

 ボランティア参加するなら、さまざまなNPOや大手旅行社がボランティア・ツアーを組んでいるし、われわれTohoku Risingでもスタディ・ツアーを提供しているが、個人旅行で被災地の現状を見てきたいという人のニーズに応える情報はほとんどないだろう。であれば、筆者が伝えるべきだということで、今回は夏の被災地(主に津波被害の地域)を巡るための情報をお伝えするが、その前に書いておきたいことがある。「最も有効な東北支援は東北でビジネスをやることだ」と常々語っているが、そのことの意味についてだ。

 東北でビジネスをやれというと、多くの人は「ビジネスをやれば経済が活性化されて雇用も生まれる、だから復興につながる」と考える。もちろんそのことは間違いではないし重要なことだが、実はもっと大きな意味がある。「忘れない」ことだ。

 数多くの被災者が語るのは「忘れないでほしい」ということだ。震災のことを、被災地のことを、被災者のことを忘れないでほしい。それは切実なメッセージとして繰り返し聞かされてきた。だから筆者も、しつこく東北ネタを繰り返しているわけだが、残念ながら、人は「忘れる生き物」でもある。

 しかし、人には自分の生活というものがあり、日常生活の中でずっとずっと東北に関心を持ち続け、支援を続けることはなかなか難しい。支援活動を続ける人たちの間でも、そろそろ支援疲れが見え始めている。やはり、チャリティやボランディアだけでは長期の支援は無理なのだ。

 東京や関西など東北以外の地方に住む人間は、震災の当事者ではない。よそ者だ。東北に移り住むならともかく、東京や西日本に住んでいる「よそ者」が東北の当事者に日常的に思いを抱き、寄り添うことは現実的なことではない。だからこそ、東北でビジネスなのである。

 東北でビジネスを行なえば、そこに関わる人間は「当事者」になる。東北復興はまさに“自分ごと”となり、イヤでも東北のことを考える必要が生じる。「忘れる」ことなどできなくなるわけだ。どれだけ多くの人が東北のことを忘れないかが、長期にわたる復興支援には重要。だから、ビジネスなのである。

 さて、ビジネスをやるためにも現地の状況を実際に自分の目で見ることは必要。筆者も商品開発や業態開発を行なうときは必ず現場を見る。もちろん、現場の人の話も聞く。見て聞いて初めて分かることは多い。データだけでは市場の空気感は分からないのだ。空気感を無視して成功するビジネスはない。東北でビジネスを行なうためには、やはり被災地を自分の目で見て、現地の人の話を聞いてみることだ。