『誰が音楽をタダにした?――巨大産業をぶっ潰した男たち』(早川書房)という翻訳書が昨秋発売されて話題になった。CDのプレス工場から発売前の新作を盗んでネットにアップロードし続けた工員や、mp3規格を生み出した無名の発明家、そうした少数の人々の関与が重なり合うことで、巨大な音楽産業が根本から揺らぎ、音楽がタダで聴くものに成り果てるまでを追ったノンフィクションである。
そう言われれば「最後にCDを買ったのは何年前だろうか?」という方も少なくないことだろう。筆者もすっかり、原稿を書きながらmp3やネットラジオを流すという「ながら聴き」ばかりになっていたが、先日、元劇団員の先輩と車中を共にする機会があり、CDの基準を上回る高音質の「ハイレゾ」(ハイレゾリューションの略)という規格の素晴らしさを熱く語る先輩に心動かされた。
車中の会話は自ずと共通の趣味である洋楽、とりわけプログレッシヴ・ロック(1960年代後半、イギリスで生まれたロック音楽の一つ)に及んだが、キング・クリムゾンという日本にもファンの多いバンドのアルバム各作が、デビュー40周年記念エディションとしてCD+DVDオーディオで発売されている。それを5.1chサラウンドなどの音響システムを揃えた環境で聴けば、それこそAMラジオがFMに変わるほどに別物の臨場感で、少年時代の興奮を新たに追体験できるというのだ。
レッド・ツェッペリンの『天国への階段』についても聴いてみた。ロック史に残るあの名曲には、残念なことにマスターテープの状態が悪いのか、音が籠もったようになってしまっている問題があった。『リマスターズ』というリマスター済みのベスト盤が1990年に発売されているが、そちらも音質の改善度に不満の残る出来だった。しかし、バンドリーダーのジミー・ペイジが監修したハイレゾ・リマスターにより、こちらも別物の立体感に仕上がっているという。