これ以上の財政赤字の拡大というのは、ある意味ではぞっとする話だが、信用が拡大して広く資産が保有されている経済では、国民の資産選好が、安全資産に傾いた時に、われわれが通常考える以上の政府債務(国債ないしはこれに準ずる預金などの安全資産)に対する需要が生じるのだと考えると、日本政府の累積債務残高は、市場のポートフォリオ的な需要に対してまだ供給不足なのではないかという可能性が捨てきれない。リスク管理は慎重を要するが、政府の債務はさらに大きい状態が最適である可能性がある。

 日本で、場合によっては米国でも、「政府の債務残高は大きすぎるのだ」という先入観を敢えて棚上げして考えてみると、分配政策的な財政赤字を中央銀行がファイナンスする政策がいいのではないか。

 日本の場合、「子ども手当」(官僚の権限につながらない単純で割合公平な「良いバラマキ」である)が現在大変不人気だが、東日本大震災の復興にお金を使うことはコンセンサスが得られそうだ。再分配政策に代えて、復興費用を日銀がファイナンスすることから始めてもいいだろう。

 何れにせよ、金融緩和の手段として、伝統的なケインズ政策を見直すべきなのではないだろうか。

 しかし、日本では、復興資金を増税で賄うことが画策されているし、米国でも、今般のS&Pによる米国債格下げを承けて財政赤字の縮減に圧力が掛かりつつある。それらは、長期的に見て健全なことかもしれないのだが、両国とも、ケインズの知恵(加えて、マネタリストの知恵でもあるが)を無視することで、痛い目に遭うのかも知れないという悪い予感がする。