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任天堂はなぜ「ニンテンドー3DS」を値下げしたか

石島照代 [ジャーナリスト]
【第22回】 2011年8月18日
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 しかし、である。任天堂はなぜ3DSの発売に踏み切ったのだろう。読者の中にも、「赤字覚悟で本体価格も下げたら、株価まで下がった。役員は給与まで削減した。こんなに苦労するのなら、現行DSのままでも良かったのでは」と思われる方は多いのではないか。筆者も3DS発売以降様々な立場の人から「岩田さんに会うことがあったら、3DSどうするのか聞いてよ」と苦笑混じりに懇願されていたくらいだ。

 そんなとき偶然、E3で行われた岩田社長グループインタビューに参加できたので、直接「ソフトメーカーが3DS市場で食べていけるか不安になっているようですが?」と聞いてみた。岩田社長は「3DSというハードが一定以上広がるかというのがひとつのポイントだが、現行DSシリーズの日本国内における、3000万台を超えるインストールベース(市場規模)は、ゲーム業界史上でも特別な出来事のひとつであり、これは簡単には超えられるハードルではない」と3DSでは以前のDS市場と同じようなビジネスがすぐできるとは思っていないことを認めた上で、次のように答えている。

 「ゲームビジネスに限らずどんな娯楽産業も、常に飽きとの競争にさらされています。今までと同じことをやっていたのでは、お客様に飽きられてしまい、これまでと同じ価値を認めていただけません。これは娯楽産業の宿命です。
より手軽な代替手段ができたり、その刺激に飽きたり、時間がなくなったりと様々な要素の中で、ゲームがかつての成功体験を元に今までと同じ方法でただゲームを作るだけだと、おそらく期待していたほどお客さんに届かなくなるわけです。

 我々の産業は基礎需要が保証されていません。30年前に、ビデオゲームがなくても誰も困っていませんでしたし、今この市場があるからと言って、10年後も同じようにあるという前提ではいけないので、変わり続けなくてはいけない。だから、いつも目新しいことを探さなければいけないと思っています。3DSでもWii Uでも、我々は『この構造だと目新しいことを思いつきませんか?』と、お客様に提案しているつもりです」

 任天堂がやっていることがビジネス的に正しいかどうかは、時間が答えてくれるだろう。しかし任天堂はリスクや批判を承知で、娯楽産業を活性化させる不断の努力をし続けている企業のひとつであり、筆者にできるのは市場全体を活性化させる不断の努力には3DSの値下げも含まれているのだろうか、とせいぜい推測することくらいだ。

世論調査

質問1 任天堂の「ニンテンドー3DS」値下げは、経営戦略上、正しい判断だと思いますか?



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石島照代
[ジャーナリスト]

1972年生まれ。早稲田大学教育学部教育心理学専修を経て、東京大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。1999年からゲーム業界ウォッチャーとしての活動を始める。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。「コンテンツの配信元もユーザーも、社会的にサステナブルである方法」を検討するために、ゲーム業界サイドだけでなく、ユーザー育成に関わる、教育と社会的養護(児童福祉)の視点からの取材も行う。Photo by 岡村夏林

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ゲームソフトをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わった。ゲーム機を飛び出し、“コンテンツ”のひとつとしてゲームソフトがあらゆる端末で活躍する時代の、デジタルエンターテインメントコンテンツビジネスの行方を追う。

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