首都圏で見ると、3月13日にJR総武線御茶ノ水駅で、翌14日にJR埼京線池袋駅で逃走劇があった。池袋駅の事件では女性を突き飛ばし、線路に降りて逃げた男性を撮影した動画がTwitterに投稿され、報道各社がその動画をニュースで取り上げたため、痴漢に疑われた人物あるいは痴漢の線路への逃亡を誘発したと見られている。

 線路を逃走する背景には、駅のホームは人が多くて逃げにくく、周囲にいる乗客や駅員に取り押さえられる可能性が高いが、線路は誰にも邪魔されず逃げやすい。だが、駆け出して線路に飛び降りる際に、乗客にぶつかったり、乗客が線路に落ちるおそれもあり、逃走中に電車にはねられる危険性もある。

 元検事で、痴漢事件を数多く扱っている弁護士の中村勉氏(中村国際刑事法律事務所代表)は次のよう話す。

「正当な理由がなく線路内に立ち入ることは鉄道営業法違反となり、逃げる際に被害者や他の乗客に接触して怪我をさせると傷害罪、暴行罪となる可能性があります。線路内に立ち入って電車を止めてしまった場合は威力業務妨害罪などに問われ、巨額の損害賠償請求をされるリスクがあります」

 今年1月、人気タレントが線路に入って撮影した写真をブログにアップして騒動になったが、その時の容疑は鉄道営業法違反。無許可で線路内に立ち入り書類送検されたが、電車の遅延を招いたり、急ブレーキをかけたため乗客に怪我人が出た場合は、軽い処分では済まされない。

 こうした事実を知ってか知らぬか、その後も、痴漢と疑われた人の線路への逃走が後を絶たない。3月29日にJR埼京線赤羽駅で線路に飛び降りて逃走、4月にはJR埼京線板橋駅、JR総武線両国駅、 JR埼京線新宿駅、JR埼京線板橋駅で、5月にもJR京浜東北線新橋駅で同様の事件が起きている。

 痴漢と間違われ、身の潔白を証明しようと駅事務室に行くと、そのまま警察に引き渡されて逮捕、最長23日間自由を奪われるといったケースがインターネット上で紹介されている影響も大きい。場合によっては、仕事や社会的信用を失い、家族が離散することもある。

 2007年に公開された周防正行監督の映画「それでもボクはやってない」で、痴漢冤罪の恐怖が広く知られるようになった。

 痴漢の疑いで逮捕されれば、容疑を否認している限り、警察での身柄拘束、送検までが最大2日間、検察官が勾留請求するか、釈放するか、起訴するかを決めるまでが最大1日、検察官が裁判官に勾留請求をして認められれば最大10日間、さらに勾留延長が認められると10日間、最大23日間も身柄が拘束されてしまう。