今回からお届けするのは、漱石アンドロイド、マツコロイドを生み出したアンドロイド研究開発の世界的第一人者・石黒浩氏による、常識に囚われないモノの見方・考え方のヒント。第1回は、日本という国が我々が思っている以上に世界の中でも恵まれた社会だ、という“脱常識的”考察について。
公共サービスの充実は
貧しさゆえの必然
僕は学会や講演で世界中の国々を回りますが、日本のように暮らしやすい国はほかにないと実感しています。これはもう奇跡的なレベルです。
とくに何がいいかと言えば、バランス。公共サービスが中途半端なところで止まっているところが素晴らしいのです。
たとえば、「幸福度ランキング」で1位のデンマーク。公共サービスがすごく充実していますが、その背景にあるのは貧しさです。
冬の気温が低いので決して浮浪者は出せません。凍死する可能性が高いからです。近代社会において道端に死体が転がっている状況を容認することはできないでしょう。公共サービスの充実は、背に腹は代えられない事情から進んだものだと私は想像しています。
北欧の中でもデンマークは最も貧しく、資源がなくて、貿易等でしか生きていけない国です。それでも公共サービスを充実させなければならないので、当然ながら税金を上げることになります。消費税率は25%で世界3位の高さ。所得税は40~60%です。
すると何が起こるか。ネガティブなループがぐるぐる回り出します。