目下、円はドルに対して史上最高値圏にある。輸出企業が屋台骨を支える日本経済にとって、この円高はまさに一大事だ。しかし現状では、即効性のある「打つべき手」がない。こうなると日本企業は、「どうやって円高の影響から逃れるか」という考え方から、「どうやって円高とうまく付き合っていくか」という考え方へと、価値観を変えていく必要がある。実際、よくよく考えればメリットも少なくないのが円高だ。世間を見渡せば、円高の追い風を受けている業界は少なくない。また、工夫や機転によって円高を乗り切ろうとする個別企業の動きも見られる。企業が「超円高時代」を乗り切るためのヒントを探ってみよう。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)
即効性のある「打つべき手」はなし
円高から逃げずに“付き合う”時代に
「海外旅行に行くなら今しかない」「今のうちにドルをたくさん買っておこう」
そんな声が巷で聞かれるようになったのは、現在、日本が未曾有の円高の真っ只中にあるからだ。
円高と言えば、日本にとって「よくないもの」というイメージが強い。8月24日時点で、円はドルに対して76円96銭という史上最高値圏にある。ただでさえ、今年初頭まで1ドル=80円台の高値圏にあった円は、今や70円台が「当たり前」というレベルになってしまった。東日本大震災や欧米の財政危機によって、世界的に不透明感が募るなか、逃避マネーは暴力的なまでの勢いで円に流れ込み続けている。
輸出企業が屋台骨を支える日本経済にとって、この円高はまさに一大事。企業業績が落ち込めば当然社員の給料は減り、家計が打撃を受け、景気悪化がさらなる苦境を招くという悪循環に陥ってしまう。
そこで政府は、8月上旬の為替介入に続き、緊急対策として1000億ドル規模(約7兆6000円)の基金創設を発表した。1年間の時限措置であることを前提に、輸出や資源確保、M&Aといった企業活動のサポートに乗り出した形だ。
しかし、基金創設の即効性については疑問の声も多い。世間では本格的な金融緩和策を求める声も広まっているが、政府・日銀は慎重姿勢を崩さない。つまり現状では、即効性のある「打つべき手」がないのである。