長男がまもなく40歳になろうというとき、国は「ニート」という用語をつくり、対策を始めた。しかし、なぜ対象者に39歳までという年齢制限を設けるのか、川島さんは理解に苦しんだ。

「39歳を超えても働こうとしない人は、障害者かホームレスとして判断するという暗黙の押し付けがあるのではないか」

 引きこもり当事者と同じ目線にどうしたら立てるのかという思考が欠如していると、川島さんはいう。

「我が家の長男の目線はどこにあるのか?」「対話ができない状況はどうして生まれたのか?」「親の教育が悪かったと言えば、それで済むのか?」
 
 川島さんは、どんな人でも社会全体で支え合うシステムができなければ、人類の未来はない、と考えるようになった。

 もともと長男は都会で仕事をしていた。その後郷里に帰り、ホテルでフロントマンを2年ほど務めた。ホテルを辞めた後、「自分の運命だ」と言って清掃会社に勤めた。しかし、熱心に通っていたのは最初の2ヵ月ほど。そのうち気が進まなくなったようで、完全な「引きこもり」状態になった。

息子の情況を病院に聞いても
「個人情報だから」の一点張り

 川島さんは言う。

「長男はいつも時間的な設定を考え約束をするが、守られたことはない。何かを待っているようにも思われるが、その正体は定かではない」

 長男は喉頭がんに侵されていると診断されているのに、頑として診察を拒み、治療を受けようとはしなかった。こうした状況への周囲の対処は、医療の面から考えてどうすればいいのか。親として心配でも、病院に問い合わせると「本人が同伴しなければ『個人情報』のため、お話しできない」と言われた。(親に打ち明けようとしない)息子の目線を、どのように理解したらいいのか。

 様々な事実を並べると、それなりの推測はできる。しかし、それは推理であって、本当の息子の目線であるかどうかがわからない。