1999年の「NTT再編」で誕生したNTTコミュニケーションズは、NTT(持ち株会社)をはじめとした再編4社のなかでNTT法に縛られない唯一の存在であり、通信事業の命運を左右するインターネットの世界で戦う純粋民間会社として最も自由に動けるはずだった。だが、いつの間にか通信会社のメンタリティに逆戻りしてしまい、特色を欠くがゆえにグループ内での存在感も希薄になりつつある。そのような低迷が続くなかで、過去に例のない大規模な組織再編に踏み切った有馬社長が胸中を明かした。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

――この8月1日から、大所帯の事業本部制を廃止して、一律にフラットな機能別の組織(部単位)に組み替えた。たとえば、グローバル事業本部は解体され、それぞれの機能別に異なる部に分散して吸収されることになった。全社を横断的にシャッフルしたことから、結果として社長1人に権限が集中する“中央集権的な体制”になったわけだが、今回の組織再編の狙いはどこにあったのか。 タテ(指揮命令系統)の整理とヨコ(機能別の組織)の組み替えをいっせいに行ったので、結果的に社員の80%が自らの職場を動くことになった。

ありま・あきら/1949年、神奈川県生まれ。73年、一橋大学商学部卒業後、日本電信電話公社(現NTT)に入社。最初の赴任地は、北海道の岩見沢電報電話局。78~79年、米スタンフォード大学大学院でMBA(経営管理学修士)を取得。長く、料金算定や制度設計の業務に従事したことから、郵政省(現総務省)の官僚が舌を巻くほど、これらの分野に精通する。NTT東日本の企画部長や経営企画部長、NTT(持ち株会社)の取締役などを経て、2007年にNTTコミュニケーションズ副社長兼ネットビジネス事業本部長に転じる。2010年に、同社社長に就任する。趣味は、週末のジョギング(約10km)で、10年以上続けている。
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 まず、社内に同じようなサービスがたくさんあるにもかかわらず、誰もサービスのラインアップの全体像を把握していなかった。しかも、重複しているサービスが多く、それぞれのサービスに付随するオペレーションのやり方もバラバラだった。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)のスケールメリットを発揮するためにも、組織を機能別に分けて集約・効率化を進める必要があった。

 次に、当社はこれまで“グローバル・ビジネス”を標榜しながらも、国内と海外ではまったく別の組織になっており、通信ネットワークの種類も異なっていた。お客様からは、国内外のビジネスを継ぎ目なくシームレスにつなぐことが求められている。当社としても、長年の懸念だった組織、サービス、オペレーションまでを含めて、国内外を一体で運営できるように変えることにした。

 最後に、NTTコムの事業構造が大きく変わってきた。現時点では、収益の基盤は国内のネットワーク事業だが、旧来型の通信回線を売るというビジネスは、相対的に価値が下がるので、いずれ先細りになる。だから、既存の回線ビジネスは徹底した効率化を進めながら、一方で新しい分野により多くの経営資源を振り向けることに狙いがあった。新しい分野とは、あらゆる通信端末を経由してクラウド(ネットワーク)上の各種サービスにアクセスできるクラウド・コンピューティングや、その環境下で動くアプリケーションの開発などだ。