ジョブズの引退がアップルに与える影響
去る8月24日、米Appleは、スティーブ・ジョブズ氏のCEO辞任と、同社COOを務めていたティム・クック氏を後任のCEOとして選任したことを発表した。ジョブズ氏は今後もAppleの取締役会に残るとのことだが、事実上の引退と考えていいだろう。
ジョブズ氏の評価は、立場や嗜好によって分かれるところである。ただ、20世紀後半から21世紀初頭にかけての、コンピューター産業の巨人であることには違いない。たとえば、マッキントッシュがなければマイクロソフトExcelも誕生しなかった可能性があることを、ご記憶の向きもおられるはず。まずは私も「おつかれさまでした」と申し上げたい。
一方、後任に選ばれたティム・クック氏は、カリスマの後継という極めて困難な仕事を担わされることになった。以前からジョブズ氏の健康問題はApple最大の経営リスクとも指摘されており、時価総額で世界最大級となった同社の継承は、産業の枠を超えて世界中のビジネスパーソンが注目している。
Appleを批判的に見る向きからは「これにてピークアウト」といった声も聞こえる。しかし私は、ジョブズ氏の引退に伴うCEO交代が同社に与える影響は、少なくとも短期的には小さいと考えている。同社の世界観は概ね完成されており、また市場における地位も確保されていて、なによりクック新CEO自身も「現状維持」を打ち出している。
もちろん「守成は創業より難し」ではある。その意味では、ジョブズCEOの引退よりも、クック氏が担ってきたCOOの役割がどのように引き継がれるのかが、実はリスク要因なのかもしれない。ただそれとて、ある程度の準備とシミュレーションはなされていただろうし、短期を2-3年と解釈すれば、すでに製品ラインナップは概ね計画されているはずだ。
では、中長期にわたって同社が安泰かと問われれば、なかなか難しい。というのは、これまでiPhoneが天下を取ってきたスマートフォン黎明期は、いわば〈ブルーオーシャン〉そのものだったと言えるからだ。反対に、これからのスマートフォン市場は、Appleやクック氏の如何に限らず、誰にとっても難しい〈レッドオーシャン〉となっていくだろう。