ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
スマートフォンの理想と現実

ジョブズ後のアップルを飲み込む
“スマートフォンの大衆化”というレッドオーシャン

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第6回】 2011年9月7日
著者・コラム紹介バックナンバー
previous page
5
nextpage

 その時、クラウドと端末のデータの同期が、従来以上に重要になってくるが、AppleはすでにiCloudでこうした技術課題に手を打ち始めている。こうした課題に、技術の深いところで手を打てるということは、それだけ課題をいち早く察知し、かつ機動的な対応ができているということに他ならない。

唯一できなかった事業継承の時間稼ぎ

 では改めて、Appleはこれからも安泰なのかと問われれば、そうとは思えない。やはり〈スマートフォンの大衆化〉という大きな流れに、Apple自体も飲み込まれていく可能性が高いからだ。

 たとえば日本を例にすると、今年度の出荷計画が、NTTドコモで600万台、KDDIで400万台と、端末出荷全体のほぼ半分がスマートフォンで占められており、ここまでの時点では計画以上のペースで達成されている。この流れは来年度以降も拡大すると見込まれ、買い替えサイクルが3年と長期化していることを勘案しても、おそらく2015年前後には大半の端末がスマートフォン化しているだろう。

 こうした傾向は日本に限ったことではなく、先進国では大体どこも似たような状況にある。そしてOS別の出荷規模では、すでにAndroidが大きく台頭している。となると、製品や市場の善し悪し、あるいはAppleが有するポジションの優位性とは関係なく、iPhoneとAndroidとの競争はすでに避けられない状態であり、またスマートフォンの将来は否応なしにAndroid陣営が左右することになる。

 その時Appleは、iPhoneのエコシステムがこれまで有していた特徴とそれによる優位性を守ったまま、(株主を含めた)彼らのステイクホルダーを満足させられるような一定のポジションを、維持することができるのか。おそらくそれは相当困難なチャレンジであり、それゆえに同社は時間稼ぎをしたいはずだ。たとえば知財戦略の強化やクラウド戦略のテコ入れもその一環だろう。

 そうした中で、おそらく唯一、自らで問題をコントロールすることも、また時間を稼ぐこともできなかったのが、ジョブズの引退に伴うCEOの交代だったとも言える。おそらくそれこそが、Apple自身にとっての経営課題の本質なのだろう。

 ただスマートフォンの将来は、Appleに限った問題ではない。Android陣営も含め、およそスマートフォンに関わる事業者のほとんどに課せられた、共通の問題である。なにしろ〈スマートフォンの大衆化〉は、Appleも含め、まだ誰も経験していないのだ。

previous page
5
nextpage
IT&ビジネス
クチコミ・コメント

facebookもチェック

クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

「スマートフォンの理想と現実」

⇒バックナンバー一覧