一方、「イスラーム国」が2014年6月以降イラクにおいて急速に占拠地を拡大し、そこで「統治機構」を整えたことには、イラクの元政権党であるバアス党や旧フセイン政権の軍・治安機関の構成員が「イスラーム国」に加わっているからだとの説明がある。

 ただし、バアス党や同党に近い武装勢力、およびイラクの政界の中に「イスラーム国」を支持したり、利用したりしたものが存在したとしても、それらは「イスラーム国」のモスル占拠後短期間のうちに粛清されたため、彼らが「イスラーム国」の運営の手法や思考・行動様式に強い影響を与えているとは考えにくい。また、「イスラーム国」の幹部や構成員の中にバアス党や旧フセイン政権の者が加わっているとの情報は、ほとんどが裏付けや実証が困難な情報であることにも注意が必要である。

リアルとインターネットで勢力拡大
世界から3万人を引き寄せた求心力

 大々的に戦果を上げ、潤沢な財源を奪取したことにより、「イスラーム国」は勢力を拡大した。イラクやシリアで占拠した地域にとどまらず、世界各地のイスラーム過激派の武装勢力の中で、「カリフに忠誠を表明」して「イスラーム国」の一部であると主張するものが現れたのである。その地理的な広がりは、フィリピン、バングラデシュ、アフガニスタン、カフカス、イエメン、エジプト、チュニジア、アルジェリア、ソマリア、ナイジェリアなどに及んだ。2016年7月に「イスラーム国」が発表した同派の機構についての広報動画によると、世界各地に35の「州」が存在することになっている。

 また、現実の世界にとどまらず、インターネットの世界でも、これまでアル=カーイダなどイスラーム過激派諸派の広報の場となってきた掲示板サイトの一部が「カリフに忠誠を表明」し、もっぱら「イスラーム国」のためだけの広報媒体へと変貌する例も見られた。「イスラーム国」がこれらの集団とどのような人的なつながりを持ち、実際にどの程度指揮・監督していたかを含め、検証・解明すべき点が多い。

 しかし、「イスラーム国」が実際に占拠している地域は、2015年初頭をピークに縮小を続けた。イラク・シリアの両政府は、諸外国の支援を受けて「イスラーム国」に占拠された地域の奪回を進めた。ただし、いずれの場合もイラク、シリアに介入する諸外国の立場の相違や権益争いが原因で非常に効率が悪く、「イスラーム国」の早期殲滅を望む立場から見れば合格点とは言えないものだった。