世界中を震撼させたパリ同時多発テロから約2ヵ月。欧米ロはイスラム国(IS)との対決姿勢を強めている。先進国が力を集めれば、本当にテロ組織に勝利することができるのか?酒井啓子・千葉大学法政経学部教授に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
テロの温床となり続ける
不安定な中東・北アフリカ情勢
――昨年11月に起きたパリ同時多発テロ以降、イスラム国(IS)掃討の動きが活発化しています。特にロシアの空爆によってISは力を失ってきていると報道されていますが、欧米ロが力を合わせればISを消滅させることは可能なのでしょうか?
確かに空爆によってISの支配地域が奪還されているという状況はありますが、一方では世界各国にISのシンパが散らばっています。パリのテロもそうですし、米国で昨年12月に起きた銃乱射事件の容疑者も、ISに忠誠を誓っていたと報道されています。
これはまさしく、アルカイダと同じパターンです。世界各国にシンパが分散し、国際テロ組織となるのです。ISが領土を失うほど、むしろ拡散は進むと考えられます。
IS、ないし「ISなるもの」は、内戦が続き、国家が破綻状態にある地域で生まれるものです。中東・北アフリカに目を転じてみれば、シリアはもちろんのこと、リビアも同じように混乱状態にある。エジプトのシナイ半島も同様で、こうした地域でテロ組織が活発化しています。
1959年生まれ。中東研究者、国際政治学者。千葉大学法政経学部教授。東京大学卒業後、アジア経済研究所に勤務。24年間の同研究所在任中に、英国ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)で修士号取得。1986~89年、在イラク日本大使館に専門調査員として勤務。2005年より東京外国語大学大学 院総合国際学研究院教授。2012年より現職。専攻はイラク政治史、現代中東政治。主な著書に『イラクとアメリカ』(岩波新書、アジア・太平洋賞大賞受賞)、『<中東>の考え方』(講談社現代新書)、『中東から世界が見える』(岩波ジュニア新書)『移ろう中東、変わる日本 2012−2015』(みすず書房、近日発売予定)など。
アルカイダもそうですが、ISも指揮命令系統がハッキリとした組織ではありません。ISの正確な実情すら、いまだによく分からない。たとえば、ナイジェリアのテロ組織「ボコ・ハラム」が昨年、ISに忠誠を誓いましたが、恐らくISの知名度を利用したいのでしょう。組織員のリクルートにも有利ですし、戦う相手への影響度も上がりますから。こうしてISとつながりを持つテロ組織が世界中に広がっています。
――そうした世界中のシンパたちは、必ずしもイスラム教徒というわけでもなさそうですね。
ISの生まれてくる要因は信仰ではありません。イスラム教はまったく関係ない。むしろ、差別や迫害といった社会構造が、ISや「ISなるもの」を生み出す基盤です。「ボコ・ハラム」もナイジェリアにおける貧富の差の大きさが生み出した組織です。