量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。
そんな量子コンピュータの実現方法は大きく分けて、超伝導量子ビット方式、イオントラップ方式、冷却中性原子方式、半導体量子ビット方式、光方式の5つがある。
今回はその中でも冷却中性原子方式について抜粋してお届けする。

いま急激に発展している量子コンピュータ。その中でも特に成長スピードが早い分野に日本はついていけるのだろうか?Photo: Adobe Stock

技術の発展で増す“存在感”

超伝導量子ビット、イオントラップの2方式がリードするなか、2023年になって急に存在感を示したのが、冷却中性原子方式である。

以前紹介したイオントラップ方式と同様、真空状態のなかで原子を捕まえて、それを量子ビットとして使っている。
ただ、イオントラップ方式とは異なるのは、電気的に中性の原子を光によって捕まえている点だ。

実はこの方式は、数千原子といった大規模な量子ビットを捕まえることができるという実績がある

もともと、光格子というレーザーで人工的に作られた格子で原子を一つひとつ捕獲し、原子を電子に見立てて物質をシミュレーションする「量子シミュレーション」や、原子の共鳴する周波数を利用して精密に時間を計測する「光格子時計」として冷却中性原子技術が開発されてきた。

光ピンセットを用いた原子一つひとつの移動や、その状態を測定できる量子気体顕微鏡などの実現によって、冷却中性原子方式がここ数年急速に発展している。

世界も日本も大注目

冷却中性原子方式はアメリカのスタートアップであるクエラコンピューティング社(QuEra Computing)とハーバード大学・マサチューセッツ工科大学連合が、280量子ビットの量子コンピュータによるデモンストレーションを発表したことで、一気に量子コンピュータ開発方式の先頭集団に加わった

日本では産業技術総合研究所にある、量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)が、クエラコンピューティング社の量子コンピュータを65億円で購入し、2025年度中に稼働させる予定である

他にも、フランスのパスカル社(Pasqal)、ドイツのプランク社(planqc)、アメリカのアトム・コンピューティング社(Atom Computing)、コロラド大学発のインフレクション社(Infleqtion)など、イオントラップ方式と同様、多数のスタートアップが立ち上がっている。

日本からは、原子と光の結合の開発を強みとするナノファイバー・クオンタム・テクノロジーズ(NanoQT)が早稲田大学から2022年に起業している。

また、最近では2025年4月に分子科学研究所と京都大学のグループが、冷却中性原子方式の量子コンピュータ開発を目指すヤクモ社(Yaqumo)を立ち上げた。

冷却中性原子方式がどう発展していくのか、大変楽しみである。

(本稿は『教養としての量子コンピュータ』から一部抜粋・編集したものです。)