>>(上)から続く

「特に父と兄は、以前では考えられなかったような物腰でした。『男っぽい』という形容詞がよく似合う2人でしたが、もう兄嫁の尻に敷かれているだけ。例えば夕食の際のテレビ番組、父が『これは観ても平気?』といちいち兄嫁におうかがいを立てるんです。バラエティだと『教育に悪い』という理由で兄嫁が却下。兄嫁が『喉が渇いた』と言えば兄が近所のショッピングモールに車を飛ばして、ノンカフェインのコーヒーを買ってくる。母は、子どもを抱いて一歩も動かない兄嫁を常に労わり、赤ん坊がいる分増えた家事をこなすために全力でフル回転している。離乳食も始めていて、レシピは母が兄嫁の指示通りに作っていました。そうした家族の献身を兄嫁が当たり前のような顔で享受しているのが解せない。兄嫁は、子どもをダシに支配者として振る舞っていると感じてしまいました」

 中でもBさんが異常に感じたことがあった。

「何気ない気持ちで甥を触ろうと手を伸ばしたとき、兄嫁が『待って!』と鋭く叫んだんです。驚いて兄嫁を見ると、敵意のある目で『赤ちゃんを触る前は必ずこれを使ってください』と、アルコール消毒液を渡されたんです。よくよく見ると、家族の全員がそれを徹底している。外出から帰った際の手洗いは必要ですが、触ろうとするたびに……っていうのはいくらなんでもやり過ぎなんじゃないかと。でも最初は僕も黙っていました」

 さらに、兄嫁からの視線が敵対的であることに、Bさんは徐々に気づいていった。

「僕はいってみれば実家の外の人間ですから、兄嫁からすると『自分の城を脅かす外敵』のような警戒心があったのだと思います。『勝手に敵認定されても…』と戸惑っていたのですが、もともとは僕の実家です。いいようにしている彼女に段々腹が立ってきて、その帰省の二日目の晩、修羅場を迎えました」

 夕食後、居間でいつもの団欒が始まった。趣味のテレビ野球観戦を禁じられていた父はイヤホンを挿したスマホに没頭。兄は兄嫁の注文をいつでも聞けるようにそばで待機しながらパソコンを開いて仕事。母は兄嫁のためにコーヒーを入れに立った。そこにBさんが声をかけた。