ところが、奇跡はある日突然やってきました。あこがれだったあそこの毛がついに生えてきたんです。

「やったー、生えてきた!」

「うぉー」と、毎日見てました。しかし、うれしいのと同時に、また抜けるんじゃないかという恐怖心もありました。「でも、だんだん伸びてきているから、抜けないな」とほっとひと安心。まるで植物の成長を見守るかのように観察していました。

 僕ほどあそこの毛で喜んだ人はいないでしょう。部活後のシャワー室での態度も変わっていきました。「もうこそこそしなくていいんだ」と。

 それほどまでにあこがれていたものですが、生えるようになってからは自分で切りそろえたり、剃ったりするようになりました。なぜか? そのほうが軽い感じがして、なんとなく具合がいいんです。

 今は、男性でも全身脱毛をする人が増えているそうですね。スポーツ界でも、ヨーロッパのサッカー選手のあいだでは脱毛が流行っていて、あそこに毛が生えているとチームメイトからイジられるのだと聞きます。中学、高校時代の悩んでいた僕に教えてあげたいくらいです。

 海外のセクシービデオに登場する男優さんも、「ない」人が多いとのことです。毛が生えていなかった頃に知っていれば、「海外のDVDを見てみろよ、生えてないのが最先端なんだぜ。知らないの?」と言って、堂々としていられたかもしれません。

 今となっては、あそこの毛が生えなくて悩んでいた日々は、「なんでそんなことで悩んでいたんだろう」と、笑って話せるものになりました。

「あそこの毛が生えなくて悩んでいた」というエピソードは、笑い話としてみると、完全に「おいしい」です。悩み事を「おいしい」と思えたら、それだけで前向きになれます。

 毛のないやつら、がんばれ! 剃っている人もいるし、悩んでいたことを「おいしい」と思える僕みたいなやつもいます。毛が生えていないと、人と違って恥ずかしいかもしれませんが、視点を変えれば前向きに生きていけます。