汎発生円形脱毛症の原因は、現代医学でも明らかになっていないことですし、僕自身もはっきりした答えは持っていません。ただ、生えてきたタイミングから考えて、それまでの悩みが悩みでなくなったことが、きっかけのひとつだったのは間違いないでしょう。
髪が生えるようになってから、「野球で活躍して自分に自信が持てたから、毛が生えてきたのでは?」と言われることがあるのですが、それはちょっとだけ違います。
当時の僕は、全国で通用するとか、甲子園で大活躍できると考えるほどの自信なんて持っていませんでした。
むしろ自信がないから、がんばって練習をしていましたし、変な自信を持っていたら「もっとがんばろう」とは思えなかったでしょう。
自信はふとした瞬間に過信に変わりますし、過信してしまうと成長は止まります。
結果的に、自信がないなかで「髪の毛なんか関係ねぇ!」と野球をがんばったから、悩みが吹っ飛んで毛が生えたのでしょう。自分の力を過信して、がんばることをやめていたら、毛は生えてこなかったと思います。
「髪の毛なんか関係ない」と思えた直後に、髪の毛が生えてきたという事実を違う角度から見ると、「ハゲてるのイヤだな」「なんで僕だけこんな病気に」と思い込んでいたから、髪の毛が生えてこなかったとも考えられます。「この病気ツラいな」と思い込んで、心にブレーキをかけ、治るのを妨げていたのは、僕自身だったといえます。
頭のせいで、からかわれたり、イヤな目で見られたりして傷ついてきた僕ですが、病気のことを一番イヤがっていたのは自分自身だったのです。
小、中、高校時代の友だちは、「稀哲は病気のことを気にしているみたいだから、そういう話はしないでおこう」と、気を使ってくれていたと思います。そういうかたちで、みんなが応援してくれていたのに、僕は周りが見えず、心のブレーキを「ぎゅーっ」と踏み続けていました。
かつての僕と同じように、病気で悩んでいる人や、何らかの神経性の病気で苦しんでいる人がいたら、僕は「ブレーキをかけているのは君自身かもしれないよ」と伝えたいです。病を受け入れて前に進んでいけば、いつか振り返ったときに「なんであんなことで悩んでいたんだろう」と思えるでしょう。
思い込みのブレーキをはずし、悩み事をさほど気にせず済むようになった瞬間に、体はきっと反応してくれます。心と体は、緊密につながっているのですから。