いまだにお上に頼ろうとする
財界首脳の発想を憂うべき

 急激な為替や株価の変動が、企業の決算に大きな影響を与えることは言うまでもない。そうした急激な変化がおこらないことに越したことはない。しかし、マーケットは所詮そういうものであって、「ブラック・スワン」を排除することは誰にもできないのだ。我々は80年代の為替の自由化以来、そうしたマーケットの習性を十分学んできたはずではなかったのか。

 また、世界的に見れば、この失われた15年の間、わが国の企業ほど、政府・日銀の手厚い支援(財政出動・金融緩和)を受けて来た例はない。それにもかかわらず、この程度の円高でいわば「お上に泣きつく」わが国財界首脳の発想・精神構造の在り方には強い違和感を覚える。

 たとえば、上場企業はこの6月末で62兆円ほどのキャッシュを保有している。円高を活用してこのキャッシュでなぜ、海外の企業や資源を自ら購入しようとはしないのだろうか。為替市場に与える影響は同じではあるが、FX(ゼロサムゲーム)より実物資産を買う方が国益に資することは明らかではないか。少なくとも、「我々も自らのキャッシュをはたいて海外企業等を買いに向かいますから税金でもバックアップしてください」と陳情するのがまだしも筋ではないか。

 もちろん、メディアや政界も同じではあるが、こうした財界首脳のお上頼みの発想は「1940年体制」下の高度成長時代とまったく変わっていないように見受けられる。付加価値を新しく生み出すのは民間しかない。

 米ソの冷戦が終結し、中国やインドの市場経済への参入に伴って、世界はまったく新しいグローバル競争の時代へとパラダイムが転換した。ゲームのルールは大きく変わったのである。このような新しい世界、すなわち金融・経済環境の著しい変化のなかで、わが国企業の競争力が低下し、株価が低迷を続けている真の原因が、財界首脳・経済界リーダーの古色蒼然としたこうした精神構造の在り方でなければ幸いである。

(文中、意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)