酒造りだけでは15代目は務まらない
経営に欠かせぬ3つの心構え

 家業に戻った後、渾身の酒を造り上げようと蔵人として経験を積んだ久野社長。一方で、伝統ある酒蔵の15代目として、経営の才も磨かなくてはならなかった。

 もっとも役に立ったのは、自分と同じ“経営者”との出会いだ。家業に戻った直後から、企業経営者に手紙を書いては会い、何らかのヒントを得ようとしていた。その時にある企業の社長からの問いかけが、今でも経営を考える際の1つの柱になっている。

 それは「儲ける」という字の意味を考えることだった。つまりは、利益をどう生み出すか、を考えることでもある。

「商売人に、政治と宗教の話は御法度ですが……。儲けるという漢字は“つくり”と“へん”に分けると『信者』とも読むなと思いつつ、信者につきものの『教祖に必要なことは何か』を考えた。その結果、3つのことに行きつきました。1つ目は、信じてくれた人を裏切らないこと。2つ目は、奇跡を起こすこと。3つ目は、未来を伝えることです」

 酒造りに当てはめると、1つ目は買ってくれた人をがっかりさせないこと、2つ目はこの値段でこんなに幸せになれるのか、という小さな奇跡を感じてもらうことだという。では、3つ目の「未来を伝える」とは何だろうか。

「私たちは、お酒を買ってもらっているというよりも、九平次の描くものに「投資」をしていただいていると思っている。株主なり、『九平次号』という船の乗客と言えるかもしれません。お酒を買ってもらって得た資金は、田んぼやワインの挑戦に使います。そこから日本酒の新しい可能性、未来を探し出し、それをお客さんに伝えたい。それが投資でいう配当に当たると思います」