会社本位スタイルが一つの要因

 1990年代後半以降、従来の日本的雇用慣行は変化しているにもかかわらず、個人側からの自律的なキャリア形成はそれほど進んでいない。会社本位スタイルとも呼ぶべき、会社勤め中心の働き方(ライフスタイル)が依然として強く存在している。

 このような会社本位の働き方が高じると過度に組織への帰属を強めてしまい、長時間労働、サービス残業、持ち帰り仕事など“労働のダンピング化”が生じる。

 過労死事件に詳しい弁護士の川人博氏は、その著書(『過労自殺』岩波新書)の中で「(日本の)中高年労働者の過労自殺は、直接的には過労とストレスから起こるものであるが、その根底には個人の会社に対する強い従属意識があり、(中略)これを『会社本位的自殺』と呼ぶことが可能であろう」と述べている。

 過労死というやや極端な例を対象にしているが、根本は、私の言う会社中心の働き方と同じものであると思われる。

 また数多くの会社員小説を分析検討した作家の伊井直行氏も、『会社員とは何者か? 会社員小説をめぐって 』(講談社)の中で、「会社員は好むと好まざるとにかかわらず、働いている間は会社と一体化している」と指摘している。

 こういう就労中心の働き方は主に高度成長からバブル期の間に醸成されてきたものである。昨今の定年退職者はまさにこういう時代のもとで働いてきたのである。

 こうした会社本位のライフスタイルのまま退職すると、どうしても生活実感を持ち得なくなって、定年後の自分の着地場所が分からなくなる。また新たに見つけるのにも時間がかかる。

 高度成長期やバブル期は遠い昔になりつつあるので、私たちの子どもの世代ではこのギャップはかなり修正が加えられるようになろう。しかし、しばらくの間は残り続けるのである。