企業間競争の激化は一般に、M&A、グローバル化、R&D投資が原因とされるが、最近の各種調査によると、必ずしもそうとはいえない。筆者らが1960年代から2005年までのアメリカの全業界全上場企業の業績を調査したところ、むしろ90年代半ばから増大したIT投資が競争環境に影響を与えており、IT投資と企業競争力に大きな相関性があるという。すなわち、とりわけエンタープライズITの導入によって、全社的な業務革新が実現したことが、競争優位を生み出しているというのだ。

シスコシステムズ、ドラッグストア・チェーンのCVS、オーチス・エレベータ、イギリスの大手小売チェーンのテスコなど、ITを導入して業務革新を実現し、その成果を全社で共有した企業が、いかに競争優位を獲得したかについて実証する。

ITが競争環境を変えていく

 あなたの会社に限らず、産業界全体にいえるが、ライバルを突き放すのはいっそう難しくなっている。我々が実施した調査によると、1990年代半ば以降、つまりインターネットとITが普及してからというもの、アメリカにおける企業間競争はかつてないほど厳しさを増している。

アンドリュー・マカフィー
Andrew McAfee
ハーバード・ビジネス・スクール准教授。HBR誌への寄稿に"Mastering the Three Worlds of Information Technology," HBR, Nov. 2006.(邦訳「CEOのためのIT経営論」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2007年8月号)がある。また、個人ブログandrewmcafee.org/blogを運営している。

エリック・ブリニョルフソン
Erik Brynjolfsson
マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメントのシャッセル・ファミリー記念講座教授。また同大学のセンター・フォー・デジタル・ビジネスのディレクターも兼ねる。著書に『インタンジブル・アセット』(ダイヤモンド社、2004年)がある。digital.mit.edu/erikには、研究内容がより詳しく紹介されている。

 これほどまで目まぐるしい競争が繰り広げられている理由として、M&Aの活発化、グローバル市場の誕生、各企業のたゆまぬR&D活動など、さまざまな理由が指摘されることだろう。しかし我々の調査によれば、IT投資が著しい成果を上げていることこそ、主たる原因である。

 今日の経済にあって、ITがどのタイミングで、どのように競争優位に結びつくのかを理解するために、60年代から2005年にわたってアメリカの全業界全上場企業を調査した。

 各社の売上高、利益、利益率、時価総額などの財務指標を調べたところ、その結果は目を見張らされるものだった。90年代半ば以降、これまでにない競争力学が働いている。具体的には、業界リーダーとそれ以外の格差が広がり、一握りの企業が市場シェアの相当部分を押さえるという傾向が強まったほか、業界内の勢力図は何度も塗り替えられた。

 さらに驚くべきことは、これは経済学者のジョセフ A. シュンペーターがいまから60年以上も前に予見した、資本主義における急激な変化を生み出す「創造的破壊」に酷似している。IT投資の増大と質的向上がごく短期間に実現し、それと歩調を合わせるようにして競争が激化する。

 その陰には、既存業務を部分的あるいは抜本的に改めるために、各社が雪崩を打ったかのように、インターネットやITを活用し始めたという事情がある。実際、とりわけ競争力学が大きく変化したのは、他の要因を考慮してもなお、ITに巨額投資した業界なのである。

 この傾向は、ソフトウエアや音楽など、デジタル化の進んだ業界では言うまでもないだろう。これらの業界には、かなり以前から一人勝ちと栄枯盛衰という特徴が見られる。次々とイノベーションの波が押し寄せるため、高い革新性を発揮して優位に立ったからといって安穏としてはいられない。