主力の液晶向けをはじめ建築や自動車ガラスなど幅広い分野を手がける旭硝子は、東日本大震災の影響を受けながらも好調さを維持している。スマートフォンやタブレットPCの普及に対応した新製品も登場した。しかし、その経営基盤はいささかいびつで、将来的には不安も漂う。総合力を武器に新たな成長戦略を築くことができるのか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

「このガラスでもまだ強さが足りないのか──」

 旭硝子の池崎孝裕・DFGプロジェクトリーダーは思わず唸った。同社が提案した新型カバーガラスに対して、取引先のモバイル端末メーカーは想像以上の厳しい要求を浴びせてきたからだ。

 近年、世界中で爆発的に普及が進むスマートフォンやタブレットPC。それらに欠かすことができないタッチパネルの市場規模は、今後10年間で現在の2倍に当たる2兆円近くまで拡大すると予想されている(右図参照)。

 タッチパネルは衝撃や擦れに弱い。そこで、従来のカバー材であるアクリル樹脂やガラスよりも、強く、軽く、質感も優れた新型カバーガラスをモバイルメーカー側は求めてきたのだ。

 しかし、そこには強力なライバルが立ちはだかる。先行する米コーニングの「ゴリラ」だ。2008年に発売以降、ほぼ市場を独占、すでに世界で4億台のモバイル端末に採用されている。

タッチパネルの普及で注目されるドラゴントレイル。アクリル樹脂に比べ傷がつきにくく、質感がよい。厚さは0.5~5.0ミリメートル。化学強化すると 60キログラムの加重にも耐える。このような特殊ガラスを作る窯を約200億円を投じて今年、兵庫県に新設。シェア30%を狙う供給体制が整った

「負けてたまるか」。池崎リーダーから結果を聞いた開発陣は、落胆するどころかさらに闘志を燃やした。ガラスの組成(元素の組み合わせ)を一から見直し、粘り気があっても薄く平らで均質なガラスを作ろうと、連日連夜、何度も試験を繰り返した。

 商品化に向けて動き出してから約3年、延べ数百人が携わり、ついに今年、新型カバーガラスが完成した。課題だった強度は従来品に比べ6倍を達成。「強く、美しく、しなやかな昇り龍のようにビジネスパートナーとともに成長していく」という意味を込め「ドラゴントレイル」と名づけられた。

「ゴリラに匹敵するものが出来上がった。ドラゴントレイルは当社の将来を担う戦略の一つ」と石村和彦社長も対抗心を隠さない。