三つの国内生産拠点では、連日のフル生産体制が敷かれている。震災特需で久方ぶりに現場の士気が上がっている

「造船所では、連日のフル生産体制を敷いているが需要に追いつかない状態だ」(ヤマハ発動機)。北海道のヤマキ船舶化工、熊本県のヤマハ天草製造などヤマハ発動機で漁船建造を行う三つの国内生産拠点では、うれしい悲鳴が上がっている。

 来年3月までに、過去最多となる3000隻もの漁船を一括受注したためだ。2010年12月期におけるヤマハ発動機の年間出荷隻数はわずか247隻なので、じつに12倍もの規模である。漁業従事者の減少により、近年の出荷隻数は低下傾向にあったが、震災特需で風向きが変わった。

 水産庁によれば、東日本大震災での津波により、2万1000隻を超える漁船が流出・損壊し、その被害金額は1537億円に上る。とりわけ、岩手、宮城、福島の3県の被害は甚大で、この県だけで1万9000隻の漁船が被災した。

 そこで、政府は、壊滅的な打撃を受けた国内漁業を早期に再開させようと、第1次補正予算で激甚災害法に基づく「共同利用小型漁船建造事業」として75億円を計上した。これは、漁業協同組合が組合員のために漁船を建造する際に、その費用を国と県が3分の1ずつ負担する仕組み。この補助金によって、業界全体で漁船5000隻の受注があり、そのうち業界シェア6~7割を握るヤマハ発動機がその恩恵にあずかった。来年度の水産予算概算要求でも、漁船等復興対策に59億円の復旧・復興枠が設けられており、来年3月以降も旺盛な需要は続くと見られる。

 まず、ヤマハ発動機は設備投資を敢行し、漁船そのものの素材でもある、ガラス繊維強化プラスチック(FRP)で船型を建造し、増産ラインを整備した。続いて、生産現場に新たに160人を雇用した。これらの要員には、かつて生産停止に追い込まれた岩手県大船渡市の造船場で働いていた技能工も含まれている。現役世代に加えて、被災したヤマハOBを巻き込んでの共同作業となり、生産現場は活気を取り戻している。

 受注のおおかたは、「和船」と呼ばれる機動性の高い小型漁船で、カキ・ノリの養殖に向く。同時に、漁船のエンジンとなる船外機も受注した。

 漁船の価格帯は、40万~300万円と幅があるが、今回のオーダーは低価格の漁船がほとんど。仮に、漁船と船外機を合わせて1隻につき100万円程度としても、3000隻分の受注高は30億円程度にしかならない。ヤマハ発動機の連結売上高1兆2941億円(うち7割は二輪車事業が占める)から見れば、儲けは微々たるものかもしれない。

 それでも、「復興に貢献しているという現場の手応えが、社内の士気につながる」(ヤマハ発動機)という。不意に訪れた震災特需は、連結業績へ与えるインパクト以上に、ヤマハ発動機の原動力となりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

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