金融危機の原因の一つも
情報隠蔽である!
情報隠蔽。誰もが、「情報隠蔽=悪」であり、起きてはならないと認識している。情報隠蔽が悪いのは、なにも不正につながるからだけでない。必要な情報が共有されずに恐るべき大参事を招いてしまうからである。
ドミトリ・チェルノフ著、橘 明美(訳)草思社、560ページ、2800円(税別)
本書『大惨事と情報隠蔽』は多くの歴史的大惨事を引き起こした主な原因が情報隠蔽でだったという新しい視点を提示する一冊だ。原発事故、大規模リコール問題、金融危機に至るまで情報隠蔽が問題を深刻化させたと分析しており、とても興味深い主張である。特に金融危機の原因の一つが情報隠蔽というのは、これまであまりなされてこなかった指摘だろう。
ありがたいことに、著者はこの情報隠蔽の原因となる要因と教訓を本書第三章で網羅的に列挙してくれている。情報隠蔽による事件・事故を未然に防ぐためのチェックリストとしての価値が非常に高い。経営者など、日ごろマネージメントに携わる人にとって、本書第三章を定期的に見直すだけでも本書を手元に置いていておく意味がある。
同様に、資料としての価値も高い。今回、著者が本書で取り上げた大惨事は、スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故、原発事故、サブプライム住宅ローン危機、SARSの世界的流行、独ソ戦初期におけるソ連軍の失敗、トヨタ大規模リコール問題など、25もの多業種・多分野にわたっている。正直、この事例集だけで大事故・大災害を比較検討する一級の事例研究資料である。ノンフィクション好きにとってはたまらない。
紹介する25の事例の中でも著者が一番ページを割いているのが原発事故である。中でもチェルノブイリ原子力発電事故には30ページ以上を割いており、読みごたえがある。