年齢を重ねても、思考が明晰で判断力を保っている人がいる。一方で、同じ歳でも物忘れが増えたり、頭の回転が遅くなったと感じる人もいる。その違いはどこから生まれるのだろうか。医師で老年医学・栄養科学の専門家であるガブリエル・ライオン氏が書き、世界20か国以上で続々刊行されている『筋肉が全て━━健康・不老・メンタル、人生のすべてが変わる唯一の方法』からヒントを紹介しよう。(ダイヤモンド社書籍編集局・三浦岳)
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いつまでも「明晰な頭」を保つには?
久しぶりに同窓会に出席して、同級生たちの変化に驚いたことはないだろうか。年齢は同じはずなのに、若々しく明晰な印象を保っている人もいれば、会話のテンポがゆっくりになったと感じる人もいる。その違いはどこから生まれるのだろうか。
遺伝や体質の影響は否定できないが、生活習慣もまた無視できない要素と考えられている。医師で老年医学・栄養科学の専門家であるガブリエル・ライオン氏による著書『筋肉が全て』では、その視点から「筋肉の量と質」に注目している。
本書は、筋肉を単なる運動器官ではなく、代謝や免疫機能にも関与する組織として捉えている。とくに、筋肉が収縮する際に分泌される物質が全身に作用する点に着目し、その影響が脳機能にも及ぶ可能性を論じている。
その背景にあるメカニズムとして紹介されるのが、筋肉から分泌される「マイオカイン」という物質だ。本書にはこう記されている。
マイオカインは全身の組織で代謝を調節するのに役立つだけでなく、組織ごとに異なる抗炎症効果を発揮して、免疫機能や代謝を向上させる。――『筋肉が全て』より
筋肉はエネルギーを生み出す器官であると同時に、全身と情報をやり取りする内分泌的な役割も担っていると考えられている。そしてその作用は脳にも及ぶ可能性がある。
運動で脳を鍛える
本書では、運動と脳機能の関連について次のように述べられている。
運動中、筋肉はカテプシンBとアイリシンという2種類のマイオカインを放出する。それが循環系に入り、血液脳関門を通過して脳由来神経栄養因子(BDNF:神経細胞の発生や成長、維持、修復に重要な働きをする)の生成を促す。
BDNFは新たな神経細胞の形成を促し、学習と記憶を促進する。
有酸素運動によるBDNFレベルの上昇は気分障害の発生を抑制する効果があり、海馬(学習、記憶、空間認識に関わる脳の領域)のサイズの拡大とも関連がある。
持病のある人も、手遅れだとあきらめている人も、筋肉をつければ命を救う効果があると知ればきっと驚くはずだ。――同書より
運動と脳機能の関係については、血流の増加やBDNFの分泌上昇などを通じて、脳の可塑性に影響を与える可能性が多くの研究で報告されている。
睡眠や栄養なども重要だが、日々の活動量を保ち、筋肉を使い続けているかどうかは、脳の老化速度を左右する大きな分岐点になり得る。
加齢そのものは止められない。しかし、運動を続けている人と、運動しない生活を続けている人とでは、年月とともに差が広がっていく。同じ歳でもいつまでも頭が若い人と老けていく人を分ける違いは、こんなところから生まれてくるのだ。
医師(DO)
イリノイ大学で栄養科学の学部課程を修了後、セントルイス・ワシントン大学において老年医学・栄養科学の臨床・研究フェローシップを修了。健康、パフォーマンス、老化、疾病予防におけるタンパク質の種類および摂取量の実践的応用に関する分野の専門家、教育者として活躍している。筋肉についての最新研究を網羅した本書は全米で大きな話題を呼び、ニューヨーク・タイムズベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナルベストセラー、USAトゥデイベストセラーとなり、世界各国での刊行が続いている。







