遺言を作成したあとは
みんな元気になる

 その後、最終打ち合わせのために、山本さんとご友人が私の事務所にいらっしゃいました。ご友人は心配顔で「山本さんの気持ちは嬉しいのですが、私が山本さんの全財産を譲り受けても問題ないのでしょうか?」と聞かれました。

 私は「大丈夫ですよ。そういう方は実はけっこういらっしゃいます。山本さんに奥様やお子様がいらっしゃれば遺留分がありますので、全財産の遺贈はできない場合もありますが、山本さんには兄弟姉妹しかいませんので、もし異議を申し立てられても係争になる可能性は少ないと思います。遺言作成能力に関して疑義があれば、遺言の有効性が問題になることもありますが、今回は公証人が山本さんに遺言能力があると認めていますので問題にはならないでしょう」と答えました。

 それでも友人の方は、「そうですか。ほっとしました。でも、もうひとつ聞きたいのです。山本さんには悪いのですが、これから先のことはわからないので、もし山本さんの相続時点で借金だけが存在した場合、私はどうしたらいいのでしょうか? 山本さんの遺言に借金がある場合は相続しないと書き入れることはできますか?」と質問されました。

 私は、「そうですね。人生何があるかわからないので、そういう場合もあるかもしれません。でも、ご心配されなくても大丈夫です。その場合は相続放棄をしてください。だから、今回作成される遺言に、負の資産(借金)があった場合のことをあえて記さなくても大丈夫ですよ」とアドバイスしました。山本さんとご友人はお互い顔を見合わせてにっこりと微笑みました。

 その後、公正証書遺言は無事に作成され、山本さんは気苦労がなくなったためか、以前に増してお元気に生活されているようです。笑い話ですが、私の事務所で遺言を作成された方は、みんな以前よりも元気になるようです。

 それは遺言を書くことで、自分の人生と折り合いをつける意味があるからなのかもしれません。そんな遺言の習慣を私は日本に根付かせていけたら素敵だなあと思うのです。