作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「日本人と会社と幸福度」について考える。
前回、この連載でお話した内容(連載第9回『同一労働同一賃金に抵抗する日本という「身分差別社会」』参照)について、あまりに「日本的雇用」に否定的だと思うかもしれません。「欧米の“冷たい”会社に対して日本の会社は社員にあたたかく、それによって日本人(男性だけですが)は幸福に生きている」とされてきたからです。それを破壊したのが「ネオリベ(新自由主義)」や「グローバリズム」で、こうした「陰謀」が素晴らしき日本的雇用をだいなしにしたのだから、国家権力(あるいは民衆のちから)で悪を成敗し、「ひとびとの瞳がきらきらと輝いていた」あの時代に戻ろう、と力説するひとたちがこの国にはまだたくさんいます。
はたしてこの「神話」は事実なのでしょうか。
これも拙書『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(幻冬舎刊)で書いたのですが、「日本的雇用は日本人を幸福にした」という神話を打ち砕く決定的なデータなのでもういちど紹介します。
日本の企業研究の泰斗、小池和男氏は『日本産業社会の「神話」』(日本経済新聞出版社)で、1990年に行なわれた日米比較調査や、1988年から2000年にかけて4回行なわれた電機連合の14カ国比較調査などを挙げて、「神話」に反して日本のサラリーマンが会社に対してきわめて冷めた感情を持っていたことを示しました。
たとえば、「結局のところいまの仕事にどれほど満足ですか」との質問に対し、満足との回答は米国で34.0%、日本はその半分の17.88%。不満足は米国ではわずか4.5%に対し、日本はその3倍の15.9%にのぼります。
「あなたの友人がこの会社であなたのような仕事を希望したら、あなたは勧めますか」の質問には、米国では63.4%が友人に勧めると答えたのに対し、日本はわずか18.5%だけで、逆に勧めないと答えたのは、米国が11.3%、日本が27.6%です。
「いまあなたが知っていることを入社時に知っているとして、もう一度この会社のいまの仕事につきますか」の質問は、「もう一度やりたい」というひとは米国ではじつに69.1%、日本は23.3%と3分の1にすぎません。
「いまの仕事は、入社時の希望と比較して合格点をつけますか」に対しては、「合格」は米国33.6%に対し日本はわずか5.2%にすぎません。「不合格」にいたっては米の14.0%に対し、日本は62.5%にものぼります。